この建物をなんとしても残したい
威風堂々とした唐破風(からはふ)や美しい格天井(ごうてんじょう)—-。
伝統的な銭湯建築の意匠を残す旧九条湯。2008年の廃業から10年、手つかずのまま放置されていた建物を、「なにかおもしろいことが生まれる場所」へと作り変えたのが、空き家再生事業を手掛ける猪飼直之さんだ。
「人が集まる場所を作り、育てたい」と話す彼の挑戦は九条湯から始まった。
バックパックひとつで
世界を旅した20代
高校在学中にアメリカへ短期留学した猪飼さんは、20代でたくさんの国を旅した。ワーホリで訪れたオーストラリア、2年がかりで40カ国をまわった世界一周旅行……。価値観の異なる人々と触れ合う中で「他人に自分の考えを押し付けても仕方ない」と悟り、以来、滅多なことでは腹を立てなくなった。
世界一周を終えて帰国、以前働いていた工場で、再び働いた。収入は安定していたが、「次の目標が見つからず悶々としていた時期」と話す。
猪飼さんは次なる目標の模索を始めた。通販事業に興味を抱いた猪飼さんは、職業訓練校でITビジネスを学び、講座修了後も講師として残ることに。そのとき人生を大きく変える仲間に出会った。


奥には本格的なバーカウンターも。
空き家を再生し
人の縁をつなぐ場所に
「空き家の活用に興味ないか? 」。仕事で利用していたコワーキングスペースで出会ったITエンジニアの言葉に、ワクワクした猪飼さん。母の実家が空き家だったことを思い出し、手始めにシェアハウスに再生した。蘇った建物と空間に感激し、その友人と一緒に空き家再生事業の会社を立ち上げることを決めた。そんなとき「両親から譲り受けた銭湯を、活用してほしい」という依頼が舞い込む。九条湯との運命の出会いだった。
九条湯を見た途端、猪飼さんは「この美しい建物を残したい」と心が震えた。九条湯の持ち主は、「かつて両親が営んでいた九条湯は地域の社交場。今後もいろんな人が来る場所にしたい」と話した。その言葉に、「ここが金儲けの場ではなく、多様な人が自由に楽しいことができる場になれば面白い」と猪飼さんは感じ、共鳴した。
九条湯は、銭湯の横に母屋を隣接する構造だ。その母屋をゲストハウスに改装することで、猪飼さんは収入の基盤を作った。そして「あなたならここで何をしますか?」というキャッチコピーで人を募り、ライブ、アートイベント、フリマ、飲食店など、いろんな人の「やってみたい」をかなえるコミュニティスペースとして活用している。その結果、「今、九条湯に関わってくれているメンバーは、全員おもしろいことがやりたい人です」と猪飼さんは破顔する。
そんな猪飼さんの次の目標は、まだ見ぬ空き家で面白い空間を作ること。「いろんな人が集まる場を作り、育てたい」という思いは変わらない。さあ、次はあなたの住む街に、そんな場所が現れるかもしれない。


コワーケーションスペース九条湯
ACCESS
京都市南区東九条中御霊町65
最寄りバス停
札の辻、地下鉄九条駅
営業時間
Instagram参照
定休日
不定休