「批判に耳を傾け、作り上げた豆腐の味わい」 自分がここまでやれたのも、お客さんが色々と言ってくれたからこそ。
深夜の静けさに佇むとようけ屋の店舗の奥、工場に明かりを灯すのは3代目主人の山本さんだ。翌朝にお揚げとなる豆のふやかしに精を出す。「この作業は根気だけや。ああでもないこうでもないと迷いながら数時間後の浸かり具合を予想して、水の温度調整をするんや」。昨晩上手くいったからといって、今晩もそうとは限らない。気温は毎日変化するし、深夜となればより激しく変わる。労力を惜しまずに向き合える者にしかできない途方もない作業。だから自分がやる。
食べ物はまず、
美味しくないといけない。
手を引いてもらい通った近所の豆腐屋の香りに幼い記憶を蘇らせる人も多いはず。京都人の豆腐やお揚げに対するこだわりは深い。そんな京都を代表する豆腐屋の主人と言えば、昔ながらの製法で作られる豆腐を想像してしまう。
「何でも手作りや、昔ながらの製法が良いとは限らん。手でやるよりも、いざ機械を導入してみて味が良くなったものもたくさんある。職人は見栄を張って手作業でやりたがるけど、ワシは常にそれを戒める。食べ物はまず、美味しくなけりゃあかんのやから」、と味を追求して機械の導入も厭わない。片や、お揚げのように、未だに手作業で揚げられ、創業時からの味を貫くものもある。機械には出せない味があるからだ。

昔ながらに人の手によって揚げられるお揚げは、明治時代の創業より変わらない味を貫く。
その一方で、夏に美味しい辛子豆腐など、ご主人の創意工夫が溢れる品々も並ぶのは、とようけ屋ならではのこと。
豆腐作りの支えになったのは
お客さんたちの手厳しい反応。
お揚げと違い、改良を重ねて変化してきたのがとようけ屋の豆腐だ。「戦後のワシの代というのは豆腐が激変した時代やった」。昭和40年頃に開発された蒸気釜は、より濃度の高い豆乳の精製を可能にし、絹ごし豆腐が主流となった。
「ワシが店を継いでまだ出だしの頃やった。西陣の織屋の女将さんが何処其処のお豆腐は美味おすえ、と言わはった。そら悔しかったなぁ。それに、世間の趣向が変わったとも分かった。さぁどないしよか、と悩み続けたんや。それがワシの豆腐屋としての始まりやった」。
それからは常にお客さんの声を気にし、世間が求める豆腐作りに専念した。水にしてもそうだ。研究を重ねるうちに単に地下水が良いわけではなく、弱アルカリ性の水が豆腐作りに適していると知る。コストを気にせずに、使い放題の豊富な地下水から浄水器を通して調整した水へと変えた。

「なまじ名前が売れてくるとな、皆が前みたいに色々言うてくれんようなってな。家内には、あんたは見栄がなさ過ぎるって言われるけど、人に好んでもらえる品を作るのにとても重要なことなんや」。自分が今あるのは、かつて味について苦言を呈してくれた人たちだ、と微笑む山本さん。昼は店に立ち、深夜に誰よりも根気強く豆腐作りと向き合う。その姿こそ、とようけ屋の本質があるように感じる。

すぐ奥に見える工場は懐かしい近所の豆腐屋さんの風情を感じさせる。
とようけ屋山本 本店
TEL
075-462-1315
ACCESS
京都市上京区七本松通一条上ル滝ヶ鼻町429-5
最寄りバス停
千本中立売
営業時間
平日・土日:7時~18時