和食の基礎を学べばできる料理が増える。
バス停日新電機前がある梅津を、地元っ子の店主、楠忠夏(くすのきただなつ)さんはこう評する。「桂、嵐山、西院のいずれとも距離がある、陸の孤島です。電車駅がないから、訪れるのは地元の人が9割ですね」。
裏を返せば、足を運びにくいがゆえに、未開拓の店に出会えるエリアでもある。そのトップバッターとしてご紹介したいのが、ここ三ちゃん。店の引き戸を開けたときの「いらっしゃいませ!」、ウェルカム感がすごい。見ると、カウンターの隣客同士が盛り上がっている。毎晩地元客で予約がいっぱいの居酒屋だ。

7人家族を養う父 尊敬心から飲食の道へ
忠夏さんは三ちゃんの二代目。創業したのは父の賛圭(さんけい)さんだ。現在33歳の忠夏さんが生まれたその年に居酒屋を始めた。親しみをもってほしくて、賛圭さんは店に「三ちゃん」と名付けた。祖父母と母と3人きょうだい、7人家族を養う父の広い背中に憧れて、忠夏さんは育った。
忠夏さんは高校卒業後の18歳、競艇選手を目指すが、最終試験で不合格になった。目標がなくなり、「何をして生きていこう」と思ったとき、素直に、尊敬する父と同じ仕事に就きたいと思った。
父親に相談したら、思いのほか喜んだ。そしてアドバイスをくれた。
「父がね、『俺は居酒屋から始めたから居酒屋しかできないけれど、忠夏は和食の基礎を学んでおけ。できることが増えるぞ』と。なるほどと思いました」。
祇園の修白など京料理店で3年間修行した。8年前、まだ50代の父が筋肉の病気を患ったことをきっかけに、忠夏さんは25歳で三ちゃんを継いだ。
ライブ感とサービス精神 名居酒屋の理由
三ちゃんのメニュー、200品近いお品書きには圧倒される。父の時代からの居酒屋らしいメニューに加え、西京極で焼き肉屋を営んでいた祖母譲りのタレが自慢、韓国料理も揃う。
「家族で来て、誰もが楽しめるメニューを揃えたら、品数が増えてしまいました」。
かつおと昆布で出汁を取り、毎朝仕入れに市場に行くのは京料理時代と変わらない。おすすめはお造りの盛り合わせだ。
「京料理と使っている素材は同じ。味では負けてないですよ」。
京料理と違うのは、居酒屋は、自分が研究した料理で、カウンターでお客さんの反応を見られる点だ。たとえば、前日に市場で買った甘鯛を塩で締めて、ひと晩寝かしたら出てくるねっとりとした甘味。出した瞬間に、カウンターから歓声が上がる。市場とお客さんをつなぐ、ライブ感が楽しくてたまらない。
忠夏さんはアットホームな居酒屋でありたいと話す。個室はつくらず、隣の人とオープンに話せる空間だ。接客も自分なりに考えて話すことを重視している。 料理、挑戦心、ホスピタリティ。にぎわいの理由がよくわかる。押しも押されもせぬ、梅津を代表する名居酒屋だ。



三ちゃん
TEL
075-861-9201
ACCESS
京都市右京区梅津高畝町42
最寄りバス停
日新電機前
営業時間
月~土17~24時(L.O.23時半)、日祝17~23時半(L.O.23時)
定休日
水