ライター・エッセイストのさとゆみ(佐藤友美)が書く「京都人じゃないからこそ感じる京都の魅力」。 京都と東京、2つの都で2拠点生活をする、京都歴9ヶ月の新参者が送る新連載「よそものだけど、大好きです」第3回。
京都に拠点を持って本当に良かったと思うのは、「京都文学」の面白さが倍増したことだ。
京都文学。
それは、京都を舞台に描かれた文学、あるいは京都の歴史や文化に深く根ざした文学をいう。
きゃいん! 好きっ!
この京都文学、京都に住んでから読むともう、めちゃくちゃ解像度があがるのだ。
私は、小説をオーディブルで、耳から聴くことが多い。
鴨川をジョギングしながら『鴨川ホルモー』を聴いていたときの興奮! 見えないはずのオニをキョロキョロ探す。
『夜は短し歩けよ乙女』を聴きながら、ほろ酔いで木屋町を歩いたときは、「仕方ない、もう一軒行きますか」となった。
大文字山に登りながら彬子女王殿下の『京都 ものがたりの道』を聴き、翌日にはおすすめの平野神社で桜を見た。
本屋大賞を受賞した『成瀬は天下を取りに行く』のシリーズ第3巻は舞台が京都だ。しかも『夜は短し〜』へのオマージュが散りばめられている。
『喫茶店タレーランの事件簿』シリーズも忘れちゃいけない。5巻が最高。
もちろん、みんな大好き『国宝』も!
京大の名物教授、森毅先生(数学者)や鷲田清一先生(哲学者)のエッセイは学生時代に何度も読んで京大に憧れた(行けなかった)。
大人になってから読み込んだ短歌集はやはり京大の永田和宏先生(細胞生物学者)。
『檸檬』は教科書で。三島は『金閣寺』だけ読み、鴎外は『高瀬舟』だけ読んだ。瀬戸内寂聴さんの『京まんだら』は刺激が強すぎた。
そもそも『枕草子』も『源氏物語』も京都が舞台なのだ!
くうううう。ビバ京都! すごすぎるよ、京都文学! こんな場所は京都以外にないよ!
あの道、この路地、この景色。これまでも大好きだった京都文学が、以前の何倍もビビッドに味わえるようになった。
今年読んだ本の中でNo.1だと思っている京都文学は、夏川草介さんの『スピノザの診察室』と『エピクロスの処方箋』だ。
2冊とも本屋大賞にノミネートされた人気作なのだが、もうこれが、泣けてたまらない。
この小説の舞台は、京都の地元に根差した個人病院。
主人公の医者、雄町哲郎先生に私はいま、恋をしている。雄町先生に手術されたい。雄町先生に看取られたい。
三条大橋、祇園の茶屋街、北野天満宮……。小説に出てきた地名の場所を歩くと、いつでも彼の姿を探してしまう。こんなところにいるはずもないのに。
ところで、雄町先生の好物は、和菓子だ。小説の鍵となるアイテムとして、京都の名物和菓子がいくつも登場する。
「世の中には死ぬまでに絶対食べておくべきうまいものが三つあるんだ。知ってるかい」
という謎かけをした雄町先生は、ズバリ言う。
「矢来餅と阿闍梨餅と長五郎餅だ」
先日、私がこの本にハマっているのを知った東京の友人が、この3つを全部買って京都に遊びにきてくれた。
折しもこの数日前、『スピノザの診察室』の映画化が決まったことにより、長五郎餅のパッケージは、スピノザ仕様になっていたという幸せ。

長五郎餅は、もう、ふっくふくに美味しかったよ。
よそものだけど、大好きです。
読んで歩いて食べて最高の、京都文学。


ライター・エッセイスト
佐藤友美(さとゆみ)
PROFILE
1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経て、ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。
著書に『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)『書く仕事がしたい』(CEメディアハウス)『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)など。
2025年夏より、京都と東京、2拠点を行き来する。