僕が、継ぎます
2025年9月、廃業寸前の銭湯を二十代の筋骨隆々の京大生、竹林昂大さんが引き継いだ。「銭湯に通いたくて風呂なし物件を探した」「旅先で地方性豊かな銭湯を巡るのが至福」「京大銭湯サークル3代目会長」「銭湯振興の先駆け・サウナの梅湯でアルバイト経験あり」。属性を並べれば、銭湯への愛は明らか。しかし「好きが高じて」なんて生っちょろい話ではない。彼は人生を賭す覚悟で、この大黒湯を守ろうとしている。
発想力や実行力を武器に
人生を正面突破
竹林さんは、幼い頃から勉強もスポーツもなんでもござれの優等生。高校で企画した文化祭の催しは、数時間待ちの行列ができた。気づけば、みんなを巻き込むことが得意になっていた。
得意科目は文系だったが「好きなのは理系。でも数学が大の苦手で。迷った末、不得意でも好きな学問を目指すことにしました。勉強するのが苦じゃないから」と理系を選択。発想力を問う特殊な二次試験を課す京大工学部にねらいを定め、2浪の末に合格。入学後は「体が鍛えられて語学力がつき、京都にくわしくなれる」と人力俥夫のバイトを始めた。その後、竹林さんは消滅寸前だった京大銭湯サークルの会長に就任。ひと月でメンバーを100人に増やした。
「理系を極める友人たちを尊敬するが、自分は企画力を活かし、社会に貢献したいと考えるようになりました」。



銭湯文化を守り
お世話になった地域へ恩を返す
2025年2月、大黒湯休業の報が流れた。休業からそのまま閉業する銭湯は少なくない。竹林さんに不安がよぎった。熱湯(あつゆ)がある大黒湯は、彼のお気に入り。さらに、風情ある大黒湯の界隈は、人力車でよく走るコースだった。
「宮川町の辺りにある大黒湯は、芸舞妓さんも利用されます。観光地から少し入るだけで、飾らない京都の日常が見えるこの界隈が、大好きなんです」。
そんな竹林さんに、バイト先である、サウナの梅湯の代表から「6年間入り浸って、界隈の特性、ご近所との関わり方も知っている。大黒湯を継ぐなら、君しかいない」と声がかかる。「僕が、継ぎます」と、二つ返事で答えた竹林さん。
「今こそ恩返しのときと思いました」。 ご賢察のように、銭湯はもうかる商売ではない。「10年で初期投資の回収の帳尻が合うかどうか」の商売だが、提示された契約期間は5年だった。それでも、持ち前の企画力で、目の前の5年に全力を尽くすと、竹林さんは目を輝かせる。
「銭湯は地域社会に欠かせない存在。銭湯の文化的価値を示すためにも、5年で利益を出して大黒湯を存続させたい」。 さらに「どうか近くの銭湯に足を運んでみてほしい。それが銭湯文化を守ることになる」と竹林さんは続ける。やはり、応援したくなってくる。これが彼の得意な、人を巻き込む「企画力」に違いない。
大黒湯
TEL
090-1929-6726
ACCESS
京都市東山区大黒町通松原下ル山城町284
最寄りバス停
五条大和大路・東山開晴館前
営業時間
15時〜25時
定休日
火