好きな人とものに囲まれて、今が楽しすぎる
小さな雑居ビルの2階にある一風変わったバー。靴を脱いで階段を上がると、カウンターの向こう側を埋め尽くす雑多なコレクションが視界に飛び込んでくる。民族楽器、パズル、玩具、ミステリー関係のグッズ……。「子どもの頃からピラミッドやUFOなどが大好きで」と目を輝かせるのは、この店の主・伊藤文人さんだ。30年のキャリアを持つ料理人であり、およそ店の雰囲気からは想像もつかない手の込んだアテを作る。料理も、楽器も、謎学も「好きなことを続ける才能がある」と胸を張り、得意そうに笑った。

海外に活路を求め
カナダの寿司レストランへ
出身は静岡県浜松市。実家が料理旅館を営んでいた伊藤さんは、中学を卒業すると家業を継ぐため、料理修業を始めた。大阪の調理師学校へ進むが、初めてのオーストラリアへの海外旅行で食事が口に合わず、日本食の可能性を感じて進路を決める。「自分の腕で、海外で勝負したいと思った」。
カナダでオープンして2年目の寿司レストランで働くべく、29歳でカナダ内陸の都市レジーナへ渡った。
「冬は零下60度にもなる極寒の街。知り合いもおらず、とにかくさみしかった」。
彼の地でも、調理師という好きなことをしながら10年働いた。「せっかくだから現地の人と仲良くなりたくて、ギターを片手に、積極的に交流しました」。それゆえに「どんなオファーにも乗っかる精神」で生きてきた。その甲斐があり、現地テレビ番組のシェフコンペティションに参加。貴重な経験もできた。

[キャプション]日本酒は貴重な銘柄まで種類豊富に揃う。
運命に導かれるように帰国し
パートナーの住む京都で開業
帰国を決めた理由は、「初恋の人」の存在だ。あるとき日本に一時帰国した伊藤さんは、小学校の恩師を囲む小さな同窓会に参加。そこで初恋の人の消息を知り、20数年ぶりに再会を果たす。カナダへ戻ってからも毎晩の電話で距離を縮め、ついに彼女の住む京都へ移り住んだのだ。 料理の腕には自信があった。日本酒も信頼できる問屋に頼み、全国から掻き集め、よりすぐりをセレクトできる。しかし自分がやりたいのは料理を提供するだけのレストランじゃない。お客さんと交流し、楽しい時間を共有する場が持ちたい。そしてこの、妙に味わい深い空間、ミュージックバーUFOが生まれた。
「京都では彼女以外、知り合いはいなかった。でもここで待っていれば、世界中からいろんな人が僕に会いに来てくれる」。 おしゃべり好きで、さみしがり屋。そんな伊藤さんにとって、この店はかけがえのない場所だ。
「自分に特別な才能があるとは思わないが、好きなことを続ける才能はある。好きなことはやめない性質なんです」。
そして今、好きな人とものに囲まれ、得意なことを糧に暮らしている。「今が楽しすぎる」。そう話す伊藤さんの表情の、なんと晴れやかなことか。

House of music bar UFO
TEL
080-3787-2310
ACCESS
京都市東山区宮川筋8-423-2 2F
最寄りバス停
五条大和大路・東山開晴館前
営業時間
18時~23時(土曜のみ~22時)
定休日
日・祝日