建仁寺が遊び場だった
新年の「十日ゑびす大祭」にはじまり、花街で繰り広げられる「節分おばけ」や先祖の霊を迎える夏の「六道まいり」。
「VELVETS倶楽部CAFÉ」は、京都の伝統行事が今も暮らしのなかに息づく松原通にある。最初は少し入りにくいかもしれない。でもその奥には京都の鰻の寝床よろしく、深い懐が広がっていた。

昼のカフェ営業もあり。
地域の人が気軽に
立ち寄る場所を作りたい
店主は山下恵美さん。この場所はかつての実家で、祖父が創業した小さな電器店の跡地だ。長らく空き家になっていたので、祇園でスナックに勤めていた恵美さんが、6つ上の兄の勇さんに相談。「軽く飲めて、奥では歌も楽しめるような店」を、とこの店を始めた。
花街や有名観光地へもすぐの好立地。昔からよく知る芸舞妓が、稽古帰りにふらりと訪れることも珍しくない。カウンター越しに客を迎える恵美さんは常に自然体。地域に根差して16年。ずつと変わらないスタンスを貫いてきた。
「最近は外国からのお客さんも増えたけれど、コーヒーが飲めてランチも出す。いたって普通の店です」と恵美さん。
屋号の「VELVETS倶楽部」は、今年に喜寿を迎える兄の勇さんが所属するバンド「VELVETS」の名前に由来する。勇さんは中高大ずっと立命館。そこで音楽を通じて親交を深めたのが、同じ祇園で生まれ育った歌手のばんばひろふみさんたちだった。ベンチャーズに憧れ、中学生のときに「VELVETS」を結成。勇さんはリードギターで、大学卒業までロックンロールにどっぷりとハマった。勇さんにとっても、ここは自分の店であると同時に、青春時代をともに送った地元のメンバーたちが集まる大切な場所なのだ。

観光客が増えても、
京都の根本は変わらない
勇さんが中高生の頃の話だ。放課後はいつも、勇さんの実家の倉庫に集まり、みなでバンドの練習をしていた。
「三味線が聞こえる宮川町の歌舞練場の少し南に倉庫があったんです。音漏れしていたと思うんですけど、一度も怒られることはなかったね」。
ちなみに、歩いてすぐの場所にある古刹の建仁寺も、当時の子どもたちにとっては遊び場。境内でソフトボールをしたり、なんと屋根に登ったり。たくさんの観光客でにぎわう今からはまったく想像がつかないが、かつての祇園には確かに、そんなおおらかな空気が流れていた。
外国人観光客が増えて京都は変わったという人は少なくない。でも、勇さんと恵美さんは口を揃えて「本質的なところは何も変わってない」と言う。
今も変わらず、同級生や幼なじみと一緒に、季節の祭事に親しんでいる。2人の目に映るのは、かつてと変わらないおだやかな京都の暮らしだ。「VELVETS倶楽部CAFÉ」は真の意味で京都らしい店といえるだろう。

VELVETS倶楽部CAFE
TEL
075-551-2489
ACCESS
京都市東山区松原通宮川町東入ル弓矢町26-1
最寄りバス停
五条大和大路・東山開晴館前
営業時間
11時~24時(水のみ18時~)
定休日
不定