これが好きやし、何時間でも。
京都の染色事業の名残がある高辻通が佐井通と交わる少し西。安藤さんがお父様の染め物工場跡に「ふじやす」を構えたのは9年前。この仕事に就き、独立して7年目の冬だった。「ずっと四条御前のあたりでやってたんですけど、父が仕事を辞めたのをきっかけに、こっちへ移ってきたんです。染め物工場は広いし、何かと便利やしね」。高辻通に面して掲げている「鰻屋」の看板を見つけて、よく客が買いにくるが、この広い店に焼いた鰻は並んでいない。「注文をいただいてから、鰻を開いて焼くんですよ。だからここには商品が置いてないんです。取りに来られる時間に合わせて焼き上げてます」。飲食店ではなく、鰻の小売店では珍しい、このシステムに驚かされる。

何十もの中でたった1つ、
魅かれた仕事。
「高校生くらいからかなぁ。20から25種類くらいのアルバイトをしてきたんですよ。ガソリンスタンドにお好み焼屋、トンカツ屋もしたね。でも自分が何をしたいのか全くわからなかった」。どんなに多くの仕事に携わっても、これだというものには辿り着けない。日々、悶々としていた安藤さんは、ある日知人の紹介で山科の鰻屋に通うことになる。「店の大将が包丁で捌いている姿を見て『面白そうやな、やりたいな、触りたい』って初めて思いました」。
大学卒業後、一時は会社勤めもやってはみたが、わずが3ヶ月で退職。学生時代に魅かれた鰻屋でのアルバイトが忘れられず、頼み込んで下働きから始めさせてもらったのだそう。「早朝、まだ大将も奥さんも起きてない時間に、そっと厨房へ入って準備を始めたりね。とにかく自分が好きな仕事だから、苦労も嫌じゃなかった」。

絶滅危惧種にはやさしい
完全受注生産。
〝ふじやす〞が選ぶ鰻は愛知県三河産の国産鰻。皮が柔らかく、脂の具合も抜群のものを安藤さんが選び抜く。「本当は1匹7〜800円以下で売りたいんです。気軽に食べてもらいたいからね。でも今は、1本2300円くらいが普通。私が始めたころよりもっと高くなってる。絶滅危惧種になったからね」。環境省が作っている日本国内のいわゆるレッドリストで、今年2月、ニホンウナギは絶滅危惧種になった。以来、漁獲量の減少とともに鰻の価格は高騰している。店頭で大量に鰻を焼いて並べる小売店やスーパーに比べると、完全受注生産のこの店は、全く鰻のロスが無い。真剣に鰻について考えねばならないこのご時世には、優良店のように思える。
「この仕事に飽きるなんて、もう無いやろね。少しでも長くこの仕事が続けたい」。今は養殖鰻の開発が進むことを祈るばかりという安藤さん。焼きたては言うまでもなく旨いこの店の鰻。持って帰って少し冷め、身がしまったところがまた絶品である。

ふじやす
TEL
075-312-4044
ACCESS
京都市右京区西院西矢掛町20
最寄りバス停
西大路松原
営業時間
9時~16時(受付)・11時~18時(お渡し)
定休日
日・祝