作り手の口が肥えなあかん。
自分たちの足でバス停近くの職人を探すのが信条の『ハンケイ500m』編集部。まだ他媒体に知られていない店を、弊誌が初めて取り上げることは、たいへん誇らしい。
ビンデットは27年も前から店を構えているにもかかわらず、食べログにすら登録されていない(2017年2月12日時点)。未踏の地に上陸する探検家よろしく、ドアを叩いた。
出迎えてくれたのは河本順子さん。釜山(プサン)出身、日本にきて40年以上が経つ。

ブルーのスーツに見染められ
20歳で結婚、日本へ
ビンデットは、水でふやかした緑豆を挽いた生地に肉などを入れて焼いたもの。小麦でつくるチヂミの緑豆版といえよう。
「ビンデットはね、チヂミの王様とも呼ばれるほどおいしいんです」。
でも、今メニューに並んでいないのは日本で手に入る粉末の緑豆でつくってもおいしくないから。店の名にだけ、河本さんの好きなビンデットを残した。
実は、このビンデットは釜山名物のひとつだ。河本さんは20歳のとき、出身地の釜山から日本に嫁いできた。
「在日コリアンの主人とその義父は、自分のルーツを大切にしたかったからでしょう。韓国にルーツがある女性に出会いたかったようです。主人の父がたまたま韓国に帰ってきたときがきっかけで、主人に会いました。ブルーのスーツを着て誠実そうだったから『ま、えーかー』と思って、結婚して日本に来ることにしました」。
2人の子宝に恵まれた。右京区の山ノ内で16年過ごし、27年前、銭湯目当てに人が集まってにぎやかな梅津へ移り住んだ。
「私ね、計算して物事を行うタイプじゃないんです。お客さんにも娘にも『お母さんは天然だね』って言われます」。

「さすがママ」の言葉で
仕込みの疲れがふっとぶ
天然=作為のないこと。まさに河本さんは、自分にとって自然なやり方で料理をしてきた。ゆるく聞こえるかもしれないが、それは厳しくもある。たとえば仕入れ。高級肉で知られる宇治のモリタ屋で肉は仕入れ、調味料や食材は釜山と東京から取り寄せる。大事なのは自分がいいと思えるか。納得するかどうかだ。
「料理をつくる人の口が肥えなあかん。自分はまだまだです」。 得意なのは、おまかせコース。女子会の予約が入るとうれしい。「喜ばしてあげたいな」、先日は牛肉のたたきを花びらのように盛り付けた。「こんな韓国料理食べたことない」「さすがママ」の言葉をもらうと、仕込みの疲れがふっとぶ気がする。
いわゆる韓国料理とも、在日コリアンの店とも一味違う。釜山から日本に渡って40年以上を過ごした河本さんの「おいしいもの」が集約された、「順子流韓国料理」がビンデットだ。彼女の人生の変遷がそのまま表れた、誰も継げない味だ。



ビンデット
TEL
075-862-2354
ACCESS
京都市右京区梅津南上田町37-2
最寄りバス停
日新電機前
営業時間
17時半~22時半(L.O.22時)
定休日
日、祝