リピーターが来ることが、成功の証
黒表紙のメニューには、鮮魚のカルパッチョやアマトリチャーナ、気になる料理がずらり。定番のほかに、旬の食材で作る季節の皿が20品ほど。厨房を取り仕切るのは、オーナーシェフの本窪田直也さん。テンポよくオーダーの料理をつくりながら、客席へのさりげない目配りも忘れない。アルバイトへの声掛けにも、気遣いが見え隠れする。「ハッピーな空間を作りたい」と話す店主の情熱が、店全体を楽しげな空気で満たす。一度行ったら、またすぐに行きたくなる。そんな時間が積み重なって、今年開店10年目を迎えた。

塩を振ってグリルしたイワシ、そら豆、ペコリーノチーズがおいしさのトライアングルを成す。
イタリアで見つけた
「やりたいこと」
本窪田さんは京都出身の45歳。高校卒業後、「やりたいことが見つからない」という思いに忠実に、自分が好きなことを探して、ロンドンの友人を訪ねる。ヨーロッパ周遊の旅で気に入ったのがイタリアだ。イタリア人の陽気さ、明るいお国柄にすっかり心を奪われた本窪田さんは「ゴンドラの船頭でもなんでもいいから、イタリアに関わる仕事がしたい」と思った。やりたいことがようやく見つかった。
帰国後、イタリアと接点のある仕事を探したとき、現実的に思えたのが料理人だった。そこで、さるイタリアンレストランに求人を見つけ、一から料理修行を始めた。「あの店があって、今の自分がいる。惜しみなく指導してくれたシェフや先輩のおかげです」と感謝を口にする。
それからチーボを開くまでに、さまざまな経験を積んだ。キッチンだけでなくサービスやオペレーションの勉強を経て、人材派遣会社では経営も学んだ。友人と立ち上げた鉄板バルでは料理全般を任されたが、もっと「自分の料理がしたい」という気持ちが高まり、独立に踏み切った。

「おいしい」だけじゃない
店の価値を高め続ける
学生グループ、カップル、大学関係者、ファミリー、飲食の同業者……小さな空間に集まる年齢も属性も異なる人々が、「心地よい一体感が生まれる瞬間がたまらない」と本窪田さんは言う。「お客さんもスタッフも僕も、みんながハッピーな空間」。そんな景色を見ていたくて、この仕事を続けている。
本窪田さんはいつも目の前にいるお客さんの顔を「さりげなく、しっかり」見る。「この店はお客さんに価値ある時間を提供できているだろうか? 」と、自分へ問いかけるためだ。料理のおいしさ、居心地の良さ、楽しい時間を過ごしたという実感、コストパフォーマンス……すべての「価値」を、高め続けていきたい。
「おいしいと言われることも大切だけど、リピートしてもらえたときが一番うれしい。リピーターが来ることこそが、前回の仕事が成功したことの証だから」。
毎回、心を込めてお客さんを見送る本窪田さん。「やりたいことをやって、幸せを感じて、お金をいただいている」。そんな彼の「幸せな気持ち」が、この店の心地よさの源であり、店の価値を高めている。
