その人が望む音に修理して、返してあげたい
こんなところに楽器の工房が!? 飛鳥井町の南、路地奥の一軒家。ここが、ミュージシャンたちが駆け込む、弦楽器専門の修理店、「岩城弦楽器工房」だ。

高校、大学の進路選択を経て
三度目の正直でギター職人に
1978年生まれの岩城一彦さんは、小さいときから「ネジがついているものは、外しても全部元通りになると思っていた」。中学1年生のときに組んだバンドではエレキギターを担当。そのエレキギターにもネジがあり、解体の対象だった。そうして、ギター制作に興味をもつ。
「将来はギターをつくる人になりたい」、そんな思いで中学卒業後の進学先としてギター制作者養成所に見学に行くも、周りは大人ばかりで気後れしてしまう。親や先生らの「高校には行っておけ」との強い助言もあり、普通科高校へ進学する。 しかし「おもしろいはずの高校が、なぜか物足りなかった」と岩城さん。大学進学時も楽器づくりの道か迷ったが、佛教大学に進学。バンドやサークルで、カントリーやブルーグラスのギターを弾いた。
「バンドやサークルは楽しかったけど、心が満たされなかった。結局、ギター職人になりたいという想いが消えることはありませんでした」。
そして、大学卒業で進路を考えるときが、いよいよ「三度目の正直」。楽器店で隅然手にしたカタログで、「Chaki」こと、京都のギターメーカー、茶木弦楽器製作所を知る。その日のうちに電話し、未経験ながらの情熱を話し、内定をもらった。

賭けのような楽器づくりより
依頼者が満足する修復を
茶木弦楽器製作所は職人数名の小さな工房だった。手先が器用な岩城さんは、すぐに重要なパーツであるネック作りを任されるようになる。しかし、数を手掛けるほどに、楽器づくりの難しさに気づく。
「楽器づくりには不確定な要素があるんです。高額な木材を使っても、いい音が出るとは限らない。でも素材が高額だと、高値の楽器として販売せざるをえない。そういった不確定な『賭け』の部分が、自分の性格に合わなかったんです」。
そこで岩城さんは楽器の修復を手掛けるリペアマンを目指す。しかし、修復には別の難しさがあることにも気づいていた。音への深い知識と理解だ。
いい音とはなにか?それは主観的で曖昧なものだ。楽器の修理を求める依頼者と、対話を重ねて探すしかない。
「楽器修理の正解は、依頼者が満足する音。その人が望む音になるように修理して、手元に返してあげたいんです」。
そして、ミュージシャンは岩城さんの修復した楽器を使い、曲づくりをするのだ。リペアマンの思いを、岩城さんは語る。
「僕は何も生み出せないけど、僕が直した楽器で、曲が生まれる。そのサポートができるのが、めちゃくちゃうれしい」。
修理のプロ、リペアマンとして、岩城さんは今日もひとり、弦楽器と向き合う。

岩城弦楽器工房
TEL
075-203-5058(要予約)
ACCESS
京都市左京区田中門前町56
最寄りバス停
飛鳥井町
営業時間
10時~19時
定休日
不定