みんなが、私のピザを喜んでくれるから
御室仁和寺の南にあるピッツェリア「OTTO」は、一般的な商売のセオリーに反する。営業は週にたった3日、メニューはピザのみ、立地は閑静な住宅街。元サッカー選手でピザ職人の西田美穂子さんは、なぜピザを焼き始めたのか。
実業団を引退後 新たな生き方を模索
中学では運動部の同級生を冷めた目で眺めていた美穂子さんだったが、「高校で は違う人間になる!」と奮起、女子サッカー部のある京都西山高等学校に進学。
「当時は女子サッカーの選手層が薄くて、がんばれば有名になれると思って」。
美穂子さんはサッカーに夢中になった。25歳、松下電器の女子サッカー部の選手となる。30歳で選手を引退し松下電器に勤務したが、「体を動かさないオフィスワークでは、生きている実感が得られない」と感じ、転職する。
大阪のサッカー協会で働いていたが、37歳のときサッカーつながりでイタリアへの興味が生まれ、フィレンツェに語学留学。その時期に「サッカーで傷んだ仲間の体をケアしたい」と鍼灸に興味が湧き、学校に通って資格を取得。鍼灸院を始めることも考えたが、美穂子さんの自由な心は別の何かを探していた。
そこで、イタリア文化に親しんでいた美穂子さんは、趣味で作っていたピザを本格的に学ぼうと思いつく。
「だってみんな、私がピザを焼いたら喜んで食べてくれるから。お店を始めたら、もっと喜んでくれるに違いない」。
それからの行動力は驚異的だった。インターネットを駆使して細い縁をつなぎ、ナポリピッツア界の巨匠・ガエダーノ氏の元でピザ修業をする機会を得た。
応援してくれる皆のためにピザ作りを極めたい
親日家のガエダーノ氏は温かい人だった。彼の焼くピザは「大きくてもペロリと食べられる、感動のピザ」。それからひと月、美穂子さんはみっちりとピザ作りを学び、帰国。2023年、自宅の一角に本格的な薪窯を設置、ピッツェリアを開店した。自分の手で生地をこね、ピザを焼く。
週に3日営業ながら、店がない日は畑の草むしりへ向かう。「休みの日も忙しいんです、四季の野菜を使いたいから。あと日曜はサッカーね」と充実した表情だ。
心の声を素直に聞き、好奇心のままに。「生きている実感のある人生」を貫いてきた美穂子さん。知名度の低い女子サッカーに、イタリアでピザ修行に、と一見無謀なその挑戦も、必ずとことんやり抜いてきた。そんな美穂子さんの真っすぐな気持ちに打たれ、周りの人は応援し、つい手を差し伸べてしまう。
「みんなの力があるから、ここまでこれました。自分ひとりじゃないから、がんばれる」と話す美穂子さんが引き寄せる、たくさんの偶然。この「OTTO」という店は、そんな見えないめぐり合わせで形作られている。だからこそ、商売の常識に反するこの店に、人は足を運ぶのだろう。
マルゲリータ1,200円に生ハムをトッピング(+400円)。ピザは常時6~7種類を用意。
春キャベツ、そら豆、スナップエンドウなど、京北町の畑で美穂子さんの育てた野菜がピザに華やぎを添える。
Pizzeria OTTO
TEL
080-2108-6529
ACCESS
京都市右京区宇多野御屋敷町1-2
特集バス停
御室仁和寺
営業時間
11時半~15時L.O.
定休日
日・祝