正解はひとつじゃない
静かな住宅街にある「おからはうす」は、環境にも配慮した料理を食べられる店だ。オープンは32年前。以来ぶれることなく、このスタイルを貫いてきた。
子育てをしながら取り組んだ環境運動
生まれも育ちも京都。店主の手塚麻喜子さんは市内で薬局を営む両親の次女として生まれた。スキーに夢中になった大学生活を経て、24歳で五条にあった旅館に嫁ぐ。接客係として茶室で客をもてなしながら育児にも奮闘した。第2子誕生をきっかけに御室仁和寺近くへ。新居は同世代のお母さんも多い団地だった。
そこで出会ったのが、「使い捨て時代を考える会」(以下・会)だ。京都大学の物理学者・槌田劭(つちだ たかし)の呼びかけによって1973年に発足、高度経済成長によるゴミや環境問題に取り組むNPO法人だ。バブルの華やかな時代とは対照的に、ボロボロのトラックに乗って、有機野菜などを売りにくるスタッフに興味がそそられた。「しかもそのお兄さんがカッコ良くて。話を聞いてすぐ、『私も入る』って」と笑いながら会との出会いを振り返る。
手塚さんは会を通じて日本人が熱帯林の破壊に関わっている事実を知り、心を動かされた。3児を育てながら、自然環境の保全運動にのめり込んでいった。
店のオープン前からある大きな松が目印。仁和寺へと続く一条通沿いに建つ一軒家。
環境問題を啓蒙する飲食店 突き詰めた先に見えたもの
新築した自宅の1階に、環境問題を知ってもらうための飲食店をつくったのが40歳のとき。それがおからはうすだ。食べ物でありながら、産業廃棄物として捨てられる「おから」。そんな環境問題の象徴を、屋号に選んだ。
おからはうすでは、会を通じて仕入れる有機栽培野菜を使い、一般家庭では捨てられがちな、にんじんのヘタも大切に使う。当初はおいしさより環境問題が最優先事項だったが、現在「歳を重ねて考え方も変わってきた」と話す。たとえば手塚さんはかつて、市販のプラスチックの容器に入ったマヨネーズを使用しなかった。それでも時代に合った料理を追求するなかで、頻度は高くないものの、柔軟に取り入れるようになった。
幼い我が子の手を引き、つねに熱心に運動に参加していた頃は「正解」を求めた。時間が過ぎた今は、正解を求めるあまり他者を否定する危うさを感じるようになったという。
「若いうちは自分の意見をもって、とことんやったらいいと思うんです。そうじゃないと運動は成り立たないですから。でも、正解はひとつじゃない。歳を重ねてわかりました」。
3人の子は成人した。三女は、環境問題に熱心な母親とは正反対の思想をもっている。しかし手塚さんは「ちゃんと自分の意見をもつ三女は偉い」と尊重する。
ひとつの道を極めたからこそ、見えてきた景色だった。
「昔はとがっていたけど、今は円熱しました」と彼女は軽やかに笑った。
おからはうす
TEL
075-462-3815
ACCESS
京都市右京区谷口円成寺17-10
特集バス停
御室仁和寺
営業時間
11時~15時半L.O
定休日
日・月・火 (祝日は営業)