植物の個性を生かせる配置に
京福北野線の線路脇にある私設植物園、「YUUKIESGARDEN」。普段は閉ざされている門から、直前まで庭仕事をしていた島本麻千子さんが編集部を出迎えてくれた。手渡された名刺に土がついているのを見て、きっとこの方は根っからの植物好きなんだろうな。そう思った。
最愛の家族を亡くした悲しみを癒してくれた植物
「YUUKIESGARDEN」の前身は両親が営んでいた「フラワーハウスおむろ」だ。
子どもの頃から花が好きで、高校卒業後は迷うことなく家業に入った。二人姉妹の次女ながら、店がなくなることが嫌だった麻千子さん、結婚の絶対条件は婿養子。のちに夫となる義広さんとは海水浴で訪れた小浜の海で出会った。海の男と24歳で結婚、2年後に第一子の長男が誕生し、次々と4人の子宝に恵まれた。
両親と自分の家族、姉家族を合わせて計11人、その中心にいたのが義広さん。麻千子さんと義広さんは、にぎやかであたたかい大家族を愛していた。
「私と子どもたちのために生きていたような人でした」。背が高く屈強な義広さんは亭主関白な一面もあった。でも、遊びは一切しない。家族思いの夫だった。
麻千子さんにとって40代はつらい時期だった。実父の死に続いて2004年の12月、長男が旅先の南アフリカ・ケープタウンで不慮の死を遂げる。それから3年後に母が、そしてなんと、悲しみをともに乗り越えてきた義広さんが末期癌の宣告を受け、1年後に亡くなってしまった。
このことを涙せずに話せるようになったのは、つい最近のことだ。思い出が詰まった花屋を閉じ、ひとりの世界に引きこもった麻千子さんを元気づけてくれたのが、庭の植物たちだった。
白い扉の奥、「アトリエ MACHIRO」では庭で育てた植物を使用したフラワーアートを展示する。
季節とともに植物も変わる 終わりのない庭づくり
亡くなった長男の名前を冠した「YUUKIESGARDEN」。大好きなオランダのアレンジメントをテーマにした作庭は、悲しみに暮れる妻を励ますための義広さんの提案だった。心の傷を癒すように土壌改良から始めた庭づくり。現在は要予約のツアーも行う庭園では、さまざまな木々や植物が折々の姿を見せる。
「緑の色や葉の形、あとは垂れ下がるものや上に伸びるもの。この庭は、あらゆる植物の美しさを配慮して、隣に来たときにお互いの個性が生かせる配置になっているんですよ」。麻千子さんが庭づくりを始めて13年が経つが、完成の見込みは立っていない。
「植物は生き物。理想の庭ができあがったと思っても、季節が変わると植物の形状も変わる。庭づくりは、永遠に完成しない絵を描くようなもの」。麻千子さんの心の傷が完全に癒えることはないのかもしれない。それでも植物たちは小さな変化を重ね、懸命に生き続ける。今年も春を迎えた庭園は、とても輝いて見えた。
YUUKIESGARDEN
TEL
075-462-1353(要予約)
ACCESS
京都市右京区御室芝橋町11
特集バス停
御室仁和寺
営業時間
10時~16時(夏季は10時~12時、14時~17時)
定休日
不定
※1人で管理しているため、必ずTELまたはHPより事前にお問合わせ下さい。