学ぶ楽しさを伝えてみんなの暮らしに寄り添いたい
白川通近く、雰囲気のあるたたずまいが気になっていた。「ISBN8411」という暗号のような名前のカフェ。店主の山口ケイコさんには、もうひとつの顔がある。それは左京区の版元「山口書店」の代表取締役だ。
出版社の社長と結婚 子育てを経て会社を継承
ケイコさんは宇治出身。短大卒業後に一般企業で働いていた20代後半。通っていた美容院の店主から縁談を持ちかけられた。お相手の年上らしい包容力に惹かれた。学習教材を専門に出版する「山口書店」の当時の社長、山口冠弥さんだ。結婚してすぐに妊娠がわかった。
「結婚=子育てで、それからはずっと専業主婦でした」。
会社の経営に関わるようになったのは、子育てがひと段落した2011年。経理を担当して、財務方面を見るようになった。
「次第に会社の維持が困難になっていき、業務改善を探るなかで山口書店についてあらためて調べました。創業者である義父の歩んできた道は、心底尊敬できるものでした」。
歴史を紐解くと、山口書店は1941年、冠弥さんの父にあたる青森県出身の山口繁太郎が設立した。また、繁太郎は同郷の画家である棟方志功と旧知の仲で、現在の社屋にはかつて志功直筆の襖絵があったそうだ。
山口書店は戦後の混乱期に、生活者の暮らしによりそう「京都日出新聞」を発行。当時には珍しく、ニュース以外にもエンタメ的な要素を盛り込んだ画期的な誌面作りをしていた。学術書を手がける同社、特に英語教材の質は高く評価されて、多くの教育者に採用されてきた。
新聞や学習教材。形が違っても共通するのは、学ぶ楽しさを伝えて社会に貢献する姿勢だ。そんな史実を知り、ケイコさんの山口書店を存続させたいという思いは強くなっていた。しかし、2016年に冠弥さんが他界。事業を縮小せざるを得なくなった。
雑誌を編集するように心が動く空間を作りたい
子育て中に大学院でソーシャル・イノベーションを学んだケイコさん。社会貢献したいという思いと山口書店の方向性を重ねて、空き家になっていたかつての社屋を多目的スペース併設のカフェに改装することを思いついた。「ISBN8411」は、山口書店の出版コードに由来する。出版コードとは、各出版社に割り当てられた番号のことだ。
「私は昔から雑誌が大好きで。読むと楽しかったり、考えるきっかけになったり、勇気をもらえたりする。ここを雑誌のような場所にしたいんです」。
誌面を通じて読者の世界を広げてくれる雑誌のような場を目指した、カフェ併設の多目的スペース。ここに行けば何かある。そんな期待が高まる場所が、「ISBN8411」なのだ。
ISBN8411
TEL
090-7356-0518
ACCESS
京都市左京区北白川瀬ノ内町40-2
最寄りバス停
北白川小倉町
営業時間
13時~17時
定休日
月~木、日