「楽しく働く」がルール
「ごりら」は店主、谷本斉さんの幼少期のあだ名。洋食でもグリルでもなく「キッチン」としたのは、「何を出してもいい自由さを感じる」から。オープンして早14年。谷本さんは、自由なキッチンで日々、自分らしく働くことを楽しんでいる。
自分の店を持つために異色の道を選ぶ
谷本さんは兵庫県豊岡市出身。両親は雀荘が2階にある鉄板焼居酒屋を営んでいた。休憩時間には一人息子の谷本さんを連れて近所の喫茶店へ行く自由な父。そんな働き方を見て、「いつか自分も店をやりたい」と思うようになった。
調理師免許を取得できる高校へ進んだ。卒業後に志望したのは、なんと海上自衛隊の給養員。全国の艦艇や基地に配属されて、自衛官の食事をつくる仕事だ。
「給料をもらいながら、調理の経験が積める。さらに船に乗る任務のときは、佐世保や呉、横須賀といった基地の名物や郷土料理が味わえる。将来、飲食店を開くために理想的な環境でした」。
希望通り給養員になった谷本さんは、舞鶴の護衛艦に乗り込んだ。給養員5人で毎食200人以上分の艦めしを作る日々。実績を積んで腕を上げた。
3年の任期を終えて、飲食店が多い京都市内へ。いくつもの店で働いたが、しっくりこなかった。模索しながら、朝は中央卸売市場の魚屋、昼は御所南にあった名店「プチレストランないとう」、夜はコンビニバイトを掛け持ちし、資金を貯めた。このときの経験で今の「キッチンごりら」のスタイルが決まる。
豚肉の可能性に気づき将来のビジョンが明確に
働くうちに、食材への興味が広がった。それが、「プチレストランないとう」で多くのメニューに使われていた豚肉だった。
「そういえば、豚肉主体の店ってあまり多くないと気づきました。豚肉をうまく『焼く』『揚げる」ができたら個性になる」。
店の方向性が定まった。23歳、最初の店は、カウンターだけの小さな物件。メニューはポークステーキ、とんかつ、ハンバーグ。味の濃いウデ肉だけで作るハンバーグは、谷本さん曰く「ソーセージみたいなハンバーグ」。デミグラスソースではなく、塩コショウで提供する。コクのある味わいや弾力ある食感は、他所では味わえない。
独立するとき、谷本さんは「楽しく働く」ことをルールに決めた。飲食業界には、自分の健康を犠牲にしてまで働く人もいるが、それでは続かない。そのために、メニューを厳選する。
「無理のない範囲で、シンプルでおいしい料理を提供する」。そのポリシーを貫いた結果が、今の「キッチンごりら」だ。自分が楽しく働けば、自然とおいしいものが提供できると谷本さんは知っている。
今、谷本さんは、息子の所属するバスケチームのコーチを楽しんでいる。繁盛店を切り盛りしながら、家庭をおろそかにしない父を見て、息子さんはどんな将来の夢を描くのだろう。
キッチンごりら
TEL
075-702-3905
ACCESS
京都市左京区田中樋ノ口町17-3
最寄りバス停
北白川小倉町
営業時間
11時半~14時15分L.O.、17時半~20時L.O.
定休日
木曜夜、日、不定休あり