この人の料理を世に広めなくては
夫の桑島さんが目指すのは「ヘルシーで、おいしくて、人を癒す料理」。そんなシェフを接客担当の妻、依子さんは「天才」と称え、「彼が野菜を洗うだけで、料理がおいしくなる」と全幅の倍頼を置く。街中から静かな住宅街へ移転して10年。ベトナムの民家を模した一軒家レストランは、この街の人気店のひとつだ。
スピード結婚した二人は直感を信じて東京へ
桑島夫妻は伏見工業高校の同級生。在学中に面識はなく、23歳のときのOB会で出会った。当時、依子さんは旅行会社で働いていた。桑島さんは料理人としてスタートを切ったばかり。桑島さんが作ったハンバーグを食べたときの感動を、依子さんはこう振り返る。
「私もいろいろ食べてきたけれど、本当においしかった。この人の料理を世に広めなくては、と思ったんです」。
旅行が好きだった依子さんは、海外で見かけるオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)を将来開きたいと夢見ていた。最高のパートナー同士は、出会ってわずか1週間で結婚を決める。
そんな2人に、思いがけない話が舞い込む。依子さんが勤めていた会社が、東京の飲食店を立ち上げるにあたり、運営を任せたいと言ってきたのだ。テーマはベトナム料理。作ったことはおろか、食べたこともなかった桑島さんは戸惑った。しかし依子さんは「彼が作るなら絶対においしくなる。ベトナム料理はめずらしいから、人を引き寄せる」と直感した。
1997年、桑島夫妻は日本橋にベトナム料理店「スアン」を開店する。
無念の撤退を契機に京都で念願の独立を果たす
事前にベトナムに渡って修業した桑島さんは、本場の味に心が農えた。
「行く前は屋台料理のような大味を想像していました。でも春巻ひとつとっても皮の素材がさまざま。野菜もたっぷり使う。その繊細さに驚きました」。
桑島さんの感動をそのまま伝える「スアン」は14席で始まったが、数日後には倍以上に席数が増えるほどに繁盛した。
ところがその後、経営元の会社が経営不振で、レストランが閉店。桑島夫妻は、地元・京都での独立を決める。2001年、御幸町四条に新たに「スアン」を開いた。
京都で、洗練されたベトナム料理はすぐに評判となった。2014年、今の場所へ移転。高校で建築を学んだ依子さんが図面を考え、ベトナムの家の木漏れ日のように光が降り注ぐ空間を作った。
これまでを振り返り、依子さんは「ピンときたことは、やるべき」だと力強く言う。そして依子さんは毎日、いろんなお客さんを迎え、会話するのが楽しいと話す。
「お金をいただいて、ありがとうと言ってもらえる。こんなに幸せなことはない」。
直感を大切にして、手を携えて歩んできた夫妻。その選択の先にこの小さなベトナム料理店はある。こういう人のところに、チャンスは巡ってくるのだろう。
ベトナムフレンチ スアン
TEL
075-741-6657
ACCESS
京都市左京区北白川久保田町56-1
最寄りバス停
北白川小倉町
営業時間
11時半~14時半L.O.、18時~21時L.O.
定休日
火(水曜夜は貸切のみ)