学生が多いから京都に来た
ハンケイ編集部が週2度は訪れる洋食店。編集長は高校生のときから足を運ぶ。ライターYの「ひらがな館」の第一印象は大学生のときだ。他の定食屋とは違う、おしゃれな空間。たくさんのメニューから迷いながら選んだ「雪見ミンチ」は見た目も味も人生初で、驚きながらもおいしくいただいたことをよく覚えている。
フランスで芝居を学び、京都へ 人生を変えた電撃結婚
「ひらがな館」の店主、新井公一郎さんは1948年生まれの76歳(取材当時)。年齢よりも若々しい。新井さんは、千葉県生まれの東京育ち。慶應義塾大学では文学部に在籍し、日本文学浸けの日々を送った。
卒業後は興味のあった芝居をやるため、単身でフランスへ。芝居とはフランス発のパントマイム「ミーム」のことだ。運良くドイツ人が主催する劇団に所属することができたが、予定よりもずっと早い3年で帰国。理由を聞くと、「アフリカ公演のために必死で練習をしていたのに、直前で連れて行ってもらえなかったから帰ってきたんです」と笑う。帰国後は演じる側から教える側へ。ミームの講師としての自信もついた頃、新たな活躍の場を求めてやってきたのが、この京都だった。
「京都なら学生がたくさんいるから演劇を教えられる、と思って来たんですけど、『出会って』しまったんです……」。
人生、何が起こるかわからないというけれどまさしく。京都に来て1週間後に、なんと電撃結婚。お相手は銀行で出会い、一目惚れした女性だった。それから半年後の1976年春、安定的な収入を得るために、料理が得意だったことを生かした「ひらがな館」を開店した。
「場所は一乗寺。開店当初は哲学書が置いてあるレストランでした。」
学生向けの定食に人気が出て、82年には現在地に2号店を。関西で活躍する「劇団そとばこまち」、当時京大在学中の座長だった辰巳琢郎ら、学生でにぎわった。閉店後、店でミームを教えることもあった。
料理も演出するように そして誕生した創作洋食
演劇から料理へ。結婚で世界がガラリと変わった新井さん。今度は我が店が演出の舞台になったのだ。
「人に使われるのは嫌。演出するのが好きなんです。料理も、いわゆる決まったものではなく、創作をしたかった」。
カタカナミンチ、ひらがなチキン。メニューには新井さんが考案したオリジナルの創作洋食が並ぶ。学生の健康と、彩りのある皿のために野菜はたっぷりと。自作の壁画やテーブルに飾られた生花から、新井さんの美学が伝わってくる。
ライターYが学生のときに感じた「ここは他の定食屋とは違う」という感覚。今回、新井さんの来歴を知り、長年の謎が解けたような気分になった。
「80歳までは頑張りたい」と笑う新井さん。かつての学生を含め、たくさんの人たちの思い出が詰まった「ひらがな館」は2026年、節目の50周年を迎える。
ひらがな館
TEL
075-701-4164
ACCESS
京都市左京区田中西樋ノ口町87-1
最寄りバス停
北白川小倉町
営業時間
11時半~ 14時20分L.O.(土日祝は~15時20分L.O.)、17時半~22時L.O.
定休日
火