「売りたい」の前に「作りたい」
個性の光るうつわや洋服、ジュエリーが目を引く、店舗兼ギャラリー。全国の作家による作品を紹介する「北白川ちせ」。編集部が取材に訪れたときは、翌日から開催される展示販売の設営中だった。
ちせを経営するのは、作家の谷内亮太さんノロマサコさん夫妻と、谷内さんの実妹のいのはらしほさんの3人だ。そして展示準備中の作家であるカクカメさんも一緒に、みんなで取材に応じてくれた。
自分たち以外の作り手を紹介
選ぶ基準は「人」
ちせを営む3人全員、京都の芸大出身。大学卒業後も自分たちの作品を「手づくり市」などで販売するなかで、「自分たちの作品を常設展示・販売できる場所が欲しい」という想いが大きくなっていった。
芸大に近く馴染みがある、並木道の北白川で店を探した。ボロボロだったクリーニング店跡を、プロの力も借りて自分たちで改装した。
ちせという場を作ったのには、展示・販売の他に、もうひとつの目的もあった。ものづくりをする同志たちとの交流だ。「自分たちが感銘を受けた作家の作品を紹介したい」。がまぐち作家、カクカメさんもそのひとりだ。開店時から毎年、ちせに作品を出し続けている。
しかし、世の中に作家はたくさんいる。どんな基準で作品を選んでいるのか?
「いい作品を作っている方はたくさんいますけど……『人』ですかね」。
マサコさんはこう言葉を紡いだ。具体的には感覚が合い、作品が売れると自分のことのようにうれしく感じられる人だ。
「誰かの作ったものを使うことは、その人柄を生活に取り入れるということだと思うんです。」
単にものを売るのではなく、使うたびに作り手のことを思い出してうれしくなるような体験も一緒に渡したい。2007年の開店からコツコツと積み上げてきた、ちせの経営哲学だ。
作家の表現の場であり、似た者同士が集まる「家」
ちせに置く作品選びの基準、そのひとつは「人柄」。そして、もうひとつの共通項があることがわかった。
「TORAJAM」ことジャム作家のいのはらさんは、ジャムという表現に魅了された。カラフルな果物を煮詰めると輝きを放つ。組み合わせで生まれる味わい。瓶詰めしたときの美しさ……。ちせでは、たくさん作ったジャムを販売している。
また、がまぐち愛が極まって作家になったカクカメさん、陶芸を経て現在はジュエリーを制作する谷内さん。彼らに共通するのは「売るために作る」のではなく、「作ったから売る」という順序だ。言うなれば、ちせに並ぶ商品は、作家の表現のひとつの形だ。売るためだけが目的ではないものづくりはとても健全で、編集長は心からうらやましいと思った。
ちせはアイヌ語で「家」を意味する。ここは、私たちの日常に潤いを与えてくれる表現者が集う家でもある。
北白川ちせ
TEL
075-746-5331
ACCESS
京都市左京区北白川別当町28
最寄りバス停
北白川小倉町
営業時間
11時〜17時
定休日
月・火