音楽には人の心を開かせる力がある
「よしもと祇園花月」の南側、ビルの4階。重い扉を開けると、暗闇に不思議な光が浮かぶ。真空管や電子回路をモチーフにした照明、「バズーカ砲」の異名を持つ円筒形のスピーカー……。ミュージックバー「エニアック」。現在の姿にたどり着くまで、さまざまな紆余曲折があった。店主の岡田圭子さんは「話をするのは得意じゃないのに」とはにかみながら、歴史の詰まったレコード棚に目をやった。
デザイン会社とラウンジ 二足の草鞋を履いた若き日々
岡田さんは地元・京丹後の高校を卒業後、京都市内の短大へ。その後、知人の紹介でデザイン会社に事務員として就職した。その会社が祇園でラウンジも経営していたため、週に1度、バイトを始めた。
「生活の足しになればと軽い気持ちで始めたのですが、バブル崩壊を受けてデザイン部門がなくなってしまったんです」。
幸いラウンジは閉店を免れたため、岡田さんはバイトからレギュラースタッフへと転身。年中締め切りに追われ、常にプレッシャーにさらされていたデザインの仕事と違い、飲食業は「オンとオフがはっきりしているところ」が気に入った。知らない人と会話をするのは得意ではなかったが、会話の中で「お客さんのいいところ」を探すことで、少しずつ苦手意識を克服していった。
次の転機が訪れたのは2014年。数度のリニューアルを経て、その頃には4代目のママとしてラウンジを切り盛りしていた岡田さんが、ついに自身の店「エニアック」をオープンしたのだ。場所は慣れ親しんだ祇園。店のコンセプトや内装イメージは、デザイン会社の元社長が親身になって考えてくれた。
受け継いだレコードは貴重な財産、だから守る
「エニアック」が所蔵するレコードや音源、ほとんどがお客さんからの寄贈品だ。
「以前の店にはジュークボックスがありましたが、大き過ぎて今の店には入らなかった。せめてレコードだけでもと目録を作り、リクエストできるように整理したんです」。
長年、客たちが「捨てるのが忍びなくて」と持ち込んだレコード、その数はEP盤・LP盤合わせて2300枚以上。ジャケットとともに整理した分厚いメニューブックは、EP盤だけで9冊にもなる。お客さんの私物だったから、時代もジャンルもばらばらで、統一感のなさがおもしろい。
「これだけあれば誰でも1枚ぐらいは好みのものがあるでしょう?」。
昔懐かしい音楽は、人と人との距離を一気に縮めてくれる。お酒と同様に、音楽には人々の心を開かせる力があると岡田さんは言う。
「皆さんから譲り受けた貴重な財産を守っている、と思っています」。
いわばレコードの守り人だ。岡田さんは思い出ごと引き継ぎ、大切に守っていく。次の世代の誰かの手に委ねるまで。
バー エニアック
TEL
075-525-2472
ACCESS
京都市東山区富永町通東大路西入ル南側マルトー4ビル3F
最寄りバス停
祇園
営業時間
19時~翌2時
定休日
日・祝