つるつる、むしゃむしゃ
ゲーム会社の開発部門でプログラマーをしていた20代の頃、夜食といえばラーメンだった。徹夜作業も珍しくない激務の中、会社を抜け出して食べるラーメンの味は格別で、同僚たちと足繁く通った。
しかし当時のラーメン屋は薄暗く、お世辞にもきれいとは言えない店ばかり。「自分だったらもっと明るく清潔な、女性も入りやすい店にするのに」。深夜にそう夢想していた青年は今、おいしく、清潔なラーメン屋の店主となった。
ゲームからラーメンへ。好きなことを仕事に
パソコン好きだった京都出身の西村佳哲さんは、大学院を修了後、大阪の大手ゲーム会社に就職。人気ゲーム開発に没頭した。しかし「オフィスにこもりきりで、ユーザーとの距離が遠いのが不満でした。もっとお客さんと近い仕事がしたい」と、10年目に会社を退職。「ラーメンが好き」というシンプルな理由から、34歳にしてラーメン屋を目指すことにした。
「いつも『どうやって好きなことを仕事につなげるか』を考えてきました」。
思い描いたのは「女性も喜んで行きたがる、家族みんなで通えるラーメン屋」。とはいえ当時、知識は皆無。まずは京都の人気ラーメン店で働き始めた。
「好きなこと」だから、修業をつらいと感じたことはない。2年後、妻の実家がある江坂で独立。8席のラーメン店を妻と2人で切り盛りした。しかし軌道に乗り始めた矢先、京都に住む西村さんの父が倒れた。そこで江坂の店を閉め、地元・京都で新たな店を始めることにした。それが現在の「鶴武者」だ。
「住民に若いファミリー層が多く、理想的な立地でした。家族みんなで『つるつるむしゃむしゃ』食べたくなる健康的なラーメン。それが店名の由来です」。
開放感のあるガラス張りのドア、木を使ったナチュラルな雰囲気の清潔な店内。そして身体に優しい良質な素材で作るスープは、化学調味料無添加でうまみがぐっと強く、じんわりあとをひくおいしさだ。
研究熱心が高じて小麦栽培を始める
京都への移転を機に、製麺機を導入し、麺も自家製に切り替えた。さらに今年から、なんと、南区に借りた畑で小麦の試験的な栽培を始めてしまった。好きなことを仕事にしている人の探究心は尽きず、立ち止まることを知らない。
「趣味と仕事の境界が曖昧」と自認する西村さん。その原動力はどこにあるのだろう?
「病気で店を休んだ日に、『今日、鶴武者に来るつもりだった人は、なにを食べるんだろう。ちゃんと幸せな食事をしているのか?』と妄想して、心配になります」。
自信を持って、人を幸せにすると言えるラーメン。だから、できるだけ毎日、より多くの人に食べてほしいのだそう。そう本気で思えるのは、作る人が心底幸せだからこそ。鶴武者のラーメンは確かに、食べる人を幸せにしてくれる。
らーめん鶴武者
TEL
075-322-7015
ACCESS
京都市右京区西院矢掛町28-2
最寄りバス停
西院巽町
営業時間
11時半~14時半、18時~21時半
定休日
金