使い続けることで同志になる
大和大路通沿いで見つけた、「やちむん」の文字。やちむんとは、沖縄の焼き物を指す島言葉だ。清水焼の故郷である東山五条で「やちむん」とは、これ如何に。謎を解きたい衝動にかられ、いざ、古い町家の戸を叩いた。
民藝を通じて魅了された日本のものづくり
店の名は「MOTTAINAIクラフト あまた」。戸を開けると、凛とした雰囲気を漂わせる女性が出迎えてくれた。
オーナーの若本紀子さんは東京生まれの京都育ち。飲食業で器を扱う親のもと、自らも「焼き物好き」になった。高校卒業後は嵯峨美術短期大学の陶芸科に進学。作陶に取り組んだ2年間で、作家の才能がないと気づいた。嵯峨美への編入で学芸員の資格を得たものの、就職は狭き門。そんな時に声をかけてくれたのが当時のバイト先で、錦市場そばにあった「松本民芸家具」の京都店だった。
民藝の流れを汲む同店では、接客から生産地に足を運んでの買い付けまで、さまざまな経験をした。なかでも一番の収穫は、民藝の提唱者である柳宗悦を知る作家と直接関われたことだ。作家の生き方とは切り離せない創作物の凄みを知った。
「民藝運動の根本を知る創始者の方々とお話ができた。ものづくりの原点を教えていただきました」。
就職したい会社がないという理由で独立を決意したのは15年前。その前に在籍したギャラリーでは、いわゆる巨匠の作品にも触れた。それでもやはり若本さんの心を震わせたのは高価な美術品ではなく、手を伸ばせばいつもそこにある手仕事のものたちだった。
手仕事のものたちが人生を豊かにしてくれる
民藝という言葉の定義が薄れつつある昨今、ものを選ぶうえで重視しているのは地産地消だ。民藝はその土地の文化を写すもの。その精神が今も色濃く残るのが、冒頭で触れたやちむんに代表される沖縄の手仕事という。
「眼を鍛えないと自分の欲しいものは見つけられません。ぜひ店を訪れて、たくさんの中から気に入ったものを見つけて帰ってほしい」。
最近は1点1点にスポットをあてて展示するクラフトショップも少なくない。しかし、こちらでは屋号の通り、あまたのものを優劣もつけずに並べる。さまざまな手仕事を扱うが、やはり思い入れがあるのは焼き物だ。人間の営みに欠かせぬ「食」。お気に入りの器に普段の料理を盛り付けて食卓を豊かにすることは、人生を豊かにすることだと信じている。
「私は『もの』が好きなんです。それも、人間の生活を取り巻く『もの』が好き。日々使い続けることで愛着が湧き、いつしか同志になるんです」。
オンライン販売はしない。生産地や作家の話を聞きながら、見て、触れ、感じる。最近、めっきり少なくなった「もの」と出会う楽しさが、ここにはある。