若い人とは話が合うから、おもしろい
高校を卒業していい大人になった頃、「店をやろう」と思いたった。時代は空前の喫茶店ブームだ。店をやるとしたら喫茶店しかない。まだ20代の若かりし頃、店主の三宅良満さんはそう考えた。
界隈の学生が集う店 カウンターでは相談も
1975年。両親からの援助もあり、25歳の時に実家がある岩倉に赤煉瓦造りの喫茶店「華林唐(かりんとう)」をオープンした。屋号は知人のネームメーカーが考案、めずらしくて印象に残る名前にしたかった。
中学の同級生だった妻、恵美子さんとは、開店翌年に結婚。「初めて店を見たときはおしゃれな空間にびっくりしました」と恵美子さん。ピカピカに磨き上げられたサイフォン、鮮やかなオレンジのコーヒーカップ、店内を照らすアメリカやイタリア製のランプ。調度品はひとつひとつ、自身で選んで集めたものだ。良満さんは「店を辞めたら売るもんは結構ありますわ」と冗談めかして話す。
店は同志社中学校・高等学校の通学路だったことから、通称「同志社通り」と呼ばれた道沿いに建つ。「喫茶ブームの最盛期は、授業を抜けて1日3回ぐらい来る子もいましたね」。若い頃、良満さんは訪れる生徒たちから「お兄ちゃん」と慕われていた。今現在、当時の生徒の最年長は60代。今も交流は続いている。
地下鉄開通の影響で同志社通りの人通りは減ったが、今も近くの京都精華大学をはじめ、学生客は多い。ちなみに店内に飾られた絵画は店の外観を描いた大作で、精華大の卒業生から寄贈されたもの。
恋愛や就職活動のアドバイスはもちろん、朝の苦手な学生にはモーニングコールまで。マスターと客という関係を越え、夫婦共々、今もまるで実の親のように学生たちと接している。
「店に学生が来てくれるとうれしいですね。若い人は話が合うからおもしろい。エネルギーがもらえる」。
そのおかげだろうか。開店から47年、休むことなく良満さんは店を続けている。
今も店を続けられている理由は、「働いている」から
華林唐と同じ時期に始めた喫茶店が廃業する——そんなニュースを耳にすることもある。良満さんは経営の厳しさをこう話す。
「働くことが苦じゃない人でないと、自営で店を続けることは難しいね」。
華林唐のお休みは、月2回と、正月の2日間だけ。良満さんは店のカウンターから客との会話を楽しんでいる。事実、夫婦は働き者だ。取材中も手を止めることなく、良満さんはスープの仕込みを続け、恵美子さんはサイフォンでていねいにコーヒーを淹れる。
「働いてさえいれば、喫茶店というものは潰れないんです」。
当たり前だけれど、とても力強い言葉だ。そんな気概を胸に、これからも夫婦ふたり、「喫茶店」というみんなの場所を守っていく。
華林唐
TEL
075-722-0960
ACCESS
京都市左京区上高野薩田町3
最寄りバス停
岩倉大鷲町
営業時間
8~19時
定休日
第1&第3日