もっと常識に対して疑問を感じていい
山裾の自然に囲まれた、グリーンが美しい隠れ家・紅茶専門店アッサムをご存じだろうか? 遠くからわさわざ足を運ぶファンも多い。
アイランドキッチンに立ち、美味しい紅茶を淹れる出口晴治さんは和歌山県出身。美大を卒業後、小学校の非常勤講師を務めたが、24歳の頃に姉や知り合いのツテをたどって京都にやってきた。知人宅で居候をしながら喫茶店で働いていたが、縁あってデザインの道に進んだ。
不惑の40歳を迎えて「まったく違う仕事をしたい」と始めたのが、2006年に開店したアッサムだ。
好奇心と探求心 研究熱心な性格
紅茶だけを扱う専門店は当時は少なく、また出口さん自身もコーヒーの知識はあったものの、紅茶の知識はゼロだった。
「喫茶店の仕事の内容はわかっていたので、妙に自信はあったんです」。
紅茶専門店を開くにあたり、いかんなく発揮されたのが、持ち前の好奇心と探究心だ。
「紅茶には美味しく淹れるためのゴールデンルールがあるんです。ただ、業務にゴールデンルールを取り入れるとどうしても味にムラが出てしまう」。
ゴールデンルールのひとつに、一定時間、茶葉を蒸らすことがある。しかし何人ものお客さんが来店すると、温度も時間もコントロールが難しくなる。そこで編み出したのが「湯煎点(ゆせんだ)て」。中国茶の作法からヒントを得た、独自の淹れ方だ。
山野草に触れて美意識が一変
アッサムの魅力は紅茶だけではない。エキゾチックな絨毯、作家もののタペストリー、そして今も現役の真鍮管(しんちゅうかん)のアンプ、6頭の愛犬……。この空間には、出口さんの「好きなもの」がいたるところに散りばめられている。
「紅茶を目当てに来たお客さんは、まるでシャボン玉の膜の中に入った状態。店にある他のものに気付かない。何も感じることなく膜の中に入ったまま帰る人もいるし、ある日突然弾ける人もいる」。
弾けるとは、すなわち気づく。人によって弾ける対象は異なるが、興味をそそられる人が多いのが「山野草(さんやそう)」だ。
現在地に移転する前の店では、紅茶=英国という固定概念から、イングリッシュガーデン風の設えにしていた。しかしある日、山野草の世界に触れて、出口さんの美の価値観は一変した。
「山野草は自由でのびのびとした魅力にあふれている。それまで育てていた花がプログラムされたものに思えてしまって、つまらなく感じたんです」。
多趣味の出口さん、目下の研究対象は完全無肥料によるバラ栽培だ。「みんなもっと常識に対し、疑問を感じていいんじゃないかな」と笑う。
美味しい紅茶は訪れる理由に過ぎない。「シャボン玉」が割れるきっかけは、アッサムのあちこちに仕掛けられている。
ティーハウス アッサム
TEL
075-751-5539
ACCESS
京都市左京区鹿ヶ谷上宮ノ前町53
最寄りバス停
錦林車庫前
営業時間
12時~16時半
定休日
木