「豊かな味わいに宿る鋭利な美意識」
五感を研ぎすまして追求する、フランス菓子本来の風味。
「接客は他の者に任せて、より菓子作りに専念したかった」。10年にわたって地元の通に支持されたベックルージュを一旦閉め、厨房をより機能的に、またイートインスペースを設けたりと、さらに理想的にフランス菓子を提供できるようリニューアルオープンしたのがタンドレスだ。
シェフの山口貴之さんは、学生時代から菓子には強い興味を持ち、フランス菓子を志すようになったという。自分が尊敬できるシェフにつき、デコレーションや色彩の感覚を磨くために始めた華道では師範代の資格も取った。しかし、山口さんが最も大切だというのはシェフ本人の美意識だ。
「本場で勉強するにしても、何を吸収して、どう意識的にやるかが大切なことだ
と思いますね」。例えば材料1つにしても、山口さん曰く「バターや生クリームなどの乳製品、またフルーツも本場のものは味が豊か。全然違う品質」、なのだとか。シェフ自身の性格や味覚などのセンスをもって材料の質の違いをいかに意識しながら作れるかがフランス菓子にとっては大切になってくるという。
食べ物には適切な温度があるそれを守るのは普通のこと
徹底した温度管理も当たり前のことになってくる。購入時にもらうリストにはそれぞれ適正温度の低さ順にA~Dで示される。生クリームなどをふんだんに使ったケーキは低温が理想だという。「この類いのケーキは持って帰るのにはあまり適さない。常温で食べるものは、まだ良いんですけどね。そもそも、ケーキは長旅をさせるもんじゃない。販売を行う僕にとってはジレンマでもある」。持ち帰りの際は入念に保冷されるのもタンドレスの特徴である。
イートインスタイルはその解決策の1つ。実際に店でいただくと、その徹底も伊達でないと分かるだろう。「材料調達に関しては、値段よりも品質を優先して考えますね」。上質の材料を使い、適正温度で出されるケーキの豊かな風味が舌を喜ばせる。何より、ケーキの食感が素晴らしく、口に運んだ時に新鮮な感動を覚える。「どんな食べ物でも食べるのに適切な温度があるでしょう?普通のことなんですよ」。
お客さんは分かってくれるから命を削るほど真剣に追求する
「デコレーションはもちろんですが、僕が追求したいのは味。キレイに作るだけなら簡単なんですが、自分が心底納得できる味を出すのは本当に難しいこと」。
お菓子に限らずに、京都人の求めるレベルは高いという。時には苦い指摘も受けたが、良い経験となっているそうだ。「そんなお客さん方との真剣勝負ですよ。命を削って味を追求するんです。魂の切り売りです」、と真剣な眼差し。この鋭利に研ぎすまされた山口さんの美意識と生来の神経質さこそ、タンドレスのケーキの本質を表している。
pâtisserie Tendress(パティスリー タンドレス)
TEL
075-706- 5085
ACCESS
京都市左京区一乗寺花ノ木町21-3
最寄りバス停
一乗寺下り松町、一乗寺木ノ本町
営業時間
テイクアウト:11時半~19時、イートイン:13時~18時
定休日
火・水・ 木・金