下請けではなく、パートナー
この京町家の内部で一体なにが行われているのか。そのヒントは、「染一平(そめいっぺい)」と書かれた小さなプレートだ。上七軒の古い町家に移り住んだ羽間一平さんは、土間をラボに改造し、染色加工技術の研究を始めた。自分にしかできない技術を求めて──。今や、知る人ぞ知る染色加工技術者として、一平さんは異彩を放つ。
工芸的と工業的。両方の染色の長所を生かす
もともと研究者を志していた一平さんは、立命館大学へ進学、化学を専攻した。頭のどこかにあったのは、かつて風呂敷屋を営んでいた、祖父の存在だ。一平さんは在学中に「手に職をつけ、いずれ独立開業したい」と、京友禅の工房に就職した。京友禅という伝統工芸は、祖父の風呂敷を作って販売する仕事と通じるものがある。
「祖父を尊敬しています。風呂敷屋として時代を先取りした事業家だっただけでなく、独自の『両面抜染』技術を編み出した生粋の職人でもありました」。
しかし、2年間働いた京友禅の工房では未来を感じられなかった。そこで24歳で愛知県の大手染色工場に転職、「染色整理」と呼ばれる加工技術を学んだ。実は、織機や編み機から出てきた「反物(たんもの)」には糊剤や油剤、汚れが付着している。反物をいわゆる「生地」に整えることを染色整理と呼ぶ。染色整理には、汚れを落とすだけでなく、色を染めたり、風合いを整えたり、機能をもたせたりすることも含む。
「染色工場では多様な素材を扱うことができたので、一連の理論と技術を体系的に学びました」。
伝統的な京友禅の技術と、工業的な染色技術。「その両方に精通する自分にしかできない染色加工技術」に商機があると確信した羽間さんは29歳で独立を決め、上七軒にラボを構えた。
ブランドが欲しがる技術 対等な立場を目指して
染一平の主な取引先は、洋服のメーカーだ。顧客リストには、いわゆる高級アパレルブランドが名を連ねる。
「高級ブランドには、自分が価値を感じる衣料品に対して、しっかりお金を払ってくださるファン層がいる。自分にしかできない染色加工技術で、そのブランドの価値を高め、共に成長していきたいです」。
一平さんはファッションデザイナーに積極的に提案を持ちかける。技術料は安くはないが、年末年始もろくに休めないほど注文が殺到する。そんな状況を「自分と同じことができる人がいないから」と、一平さんは冷静に分析する。
かつて友禅工房で働いた一平さんは、価格競争に陥らないためには、決して他所のものまねはしないこと、加えて伝統的な手仕事の中で、オリジナルの製品を創り出すことが強みになると知っている。
「下請けではなく、パートナーとして対等でありたい。私の染色加工技術を知って『今までの染屋とはちゃうな』という顔をすると『してやったり』と思います」。
そう言って、不敵な笑みを浮かべる孤高の染技師。染色業の期待の新星、その動向に注目していきたい。
染一平
TEL
075-600-2295
ACCESS
京都市上京区六軒町通一条上ル若松町351
最寄りバス停
上七軒
営業時間
記載なし
定休日
不定休
※染め直し、部分補正などのご依頼の際は、事前にお電話下さい。