ヤノベケンジの世界から語る現代アート
アトムスーツ・プロジェクト:大地のアンテナ(2000)


等間隔に立ち並ぶ、500体の「アトムスーツ」を着た小さなフィギュア像。その真ん中のライトボックスの上に立つのは、黄色い「アトムスーツ」を着た、等身大のヤノベケンジの自画像だ。《ビバ・リバ・プロジェクト:スタンダ》の前年の2000年、東京都現代美術館のグループ展「ギフト・オブ・ホープ(希望の贈り物)」で発表されたインスタレーション、「大地のアンテナ」。自身のフィギュアは、六波羅蜜寺にある空也上人立像を模している。

空也上人立像は、慶派(けいは)※1の仏師の1人で、運慶の四男にあたる康勝(こうしょう)※2が制作した。念仏踊りなどで民衆の中に入り、ときにはユーモアあふれるパフォーマンスで、人々を救済すべく布教し、さまざまな尊い教えを説いた空也上人。ヤノベは、彫刻家としてこの立像に魅了され、同時に空也上人の生き方そのものにも、むかしから親しみを抱いていた。

小さなフィギュア像の頭上のアンテナはガイガーカウンターだ。目に見えない宇宙線や自然界の放射線をキャッチすると、ピッピッピッピッと音を鳴らす。「自分のようなクリエイターやアーテイストの役割は、ある意味、そういう目に見えないメッセージのようなものを、敏感に世界から受け取って、広く社会に伝えていくことでもあると思う」。感度の高い人が、さまざまな表現で警鐘することをイメージして作られた興味深いインスタレーション作品だ。

足元には、1997年にヤノベがチェルノブイリを探訪する様子を撮影した写真が並んでいる。現地で出会った人々の表情、姿、またそのことを綴っているヤノベの日記も、このとき初めて公開展示したのだ。実はこの展覧会までは、アトムスーツを着たヤノベが、チェルノブイリの廃墟に佇む写真しか公開してこなかった。しかし、この「ギフト・オブ・ホープ」では、ヤノベが生身の自分自身の経験したことを、人々に伝えようとしたのだ。

ヤノベはときどき、自身の作品を「映画のようなもの」と話す。「もともと工作少年だったから、モノづくりは大好きだけど、モノだけでは物足りない。映画のようにバックグラウンドから作りたい」。作品は登場人物で、主人公は自分。そこには歴史的背景があり、そういう現実の中に、作品を創る。自分の作品によって、多くの人の意識を変えられるかもしれない。これがヤノベの編み出した、新しいアートの表現なのだ。
【注】
※1 平安時代末期から江戸時代の仏師の一派。
※2日本の鎌倉時代の仏師。運慶の四男。湛慶は兄。慶派。
(2019年9月10日発行 ハンケイ500m vol.51 掲載)

ヤノベケンジ
PROFILE
現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。
1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。『福島ビエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭2013』、『あいちトリエンナーレ2013』に出展。
https://www.yanobe.com/