ラバーダックはある種の正解
肩書きは「アヒル屋」と答える。河原町七条に誕生した「ダックス」は、おふろに浮かべる黄色いあのアヒル、すなわちラバーダック専門店だ。多種多様な「アヒル」が集う店内は、もはやミュージアム。通りすがりのツーリストも足を止め、興味深げに店をのぞき込む。

這い上がった先で出会ったラバーダック
ラバーダックに魅せられた人、森下義紀さんは、静岡出身。大阪の大学に進学して以来、関西で暮らす。実はラバーダックの虜になったのはここ数年。それまでの人生はというと、紆余曲折の連続だった。
新卒でアパレル業界に就職したが、ハードワークに体調を崩し退職。以後は専門学校に入学し、当時、興味のあったデザインをゼロから学んだ。29歳のときに後輩と起業。しかし仕事も順調と思われた矢先、仕事のパートナーで家族の一員のように思っていた後輩が取引先と共に消えてしまう。手元に残ったのは借金だけ。文字通り、人生のどん底を味わった。
「そこからは、これ以上の辛い経験はもうないと腹をくくりました」。
現在46歳。陽気なラバーダックとは対照的な半生だが、挑戦を恐れぬ今の姿はそんな過去があってこそ。結婚を機に引っ越した木津川市でデザイン業のかたわら、大好きな多肉植物の専門店を始めた。
一緒にラバーダックを並べたところ、そのキュートさから「アヒルも置いている植物店」は評判になった。
調べたところ、ラバーダックはアメリカ生まれながらヨーロッパを中心に多く「生息」している。それからは植物同様に未知のラバーダック集めに夢中になった。その数はどんどん増え、ついには卸しを営むまでに。かくして、ここにしかないユニークな「アヒル屋」は誕生した。

日本発のダックを世界へ。自分でやるから、面白い。
多肉植物と同様に、アヒルも生きていくうえで必要不可欠なものではない、と前置きしながら森下さんは続ける。
「みんな人生で一度はアヒルをお風呂で愛でたことがある。だから、ラバーダックはある種の正解なんだと思うんです」。
ビルのテナントではなく河原町七条の路面に出店した。その理由は、「ショッピングモールにはたくさんテナントが入っていてなにもかもがあるように錯覚させられるけれど、実は際立つ個性が消されていてつまらない」。そんなアンチテーゼがある。前代未聞の挑戦に周りからは「アヒルで食っていけるの?」と聞かれる。森下さんの答えはこうだ。
「流行ってるからやるんじゃなくて、流行らせる側のほうが、おもしろいじゃないですか」。
最終目標は日本産ラバーダックのメーカーになること。森下さんは、アヒル愛と同時に新しい文化を自らの手でクリエイトするという気概をもつ。「ダックス」が、多様な文化と共に歩んできたこの土地に誕生したのは、決して偶然ではない。

Ducks
TEL
なし
ACCESS
京都市下京区材木町466-4
最寄りバス停
塩小路高倉・京都市立芸術大学前
営業時間
12時~18時(日によって変動あり)
定休日
不定休