聞くべき音楽を「処方」される快感
編集Kは音楽との付き合い方がよくわからない。好きな音楽から、どうやって聞く幅を広げたらいいかわからないのだ。そう話すKに、マスターはまるで有能な薬剤師のようにCDの棚から次に聞くべき1枚を取り出してくれる。
「矢野顕子が好きなの? だったら、ケイト・ブッシュは聞いた? クラシック畑から出た異端のジャズピアニストっていう点で共通してる。元祖、イギリス版不思議ちゃんやね」。
『THE DREAMING』を流してくれる。矢野顕子が影響を受けたと聞いて納得の曲調に、マスターは煙草を吐いた。「この録音の重ねどりがさ、1980年代では新しかったんだ」。
夜更けにこんな会話が繰り広げられるのが、音楽好きが音楽の話をするために集まるバー、「ギャラクシー500」だ。

ギタリストの夢を経て バーで働き、独立へ
マスターの橋目隆行(はしめ・たかゆき)さんは大阪・堺出身の1965年生まれ。2歳上の兄の影響もあり、15歳でギターに夢中になった。好きなジャンルは、パンクとニューウェイヴ。高校卒業後は今でいうフリーターをしたが、1987年、バンドがギタリストを募集していると聞き、京都に移り住んだ。住まいは、メンバーが通っていた精華大近くのボロアパート。3〜4つのバンドを掛け持ちして、ギターの練習に明け暮れた。当時のバンド仲間には東京を経て、海外で活躍する者もいる。
プロのギタリストを目指した男は、自分の過去を語ることを好まない。結論として、橋目さんは京都に残った。
30代半ばから四条木屋町南にあるバー「ろくでなし」で17年間働いた。この間に、自身のバンド活動は休止した。2002年に「かっこいい音楽がかかる店」をつくりたくて独立。好きな音楽をひとつ知ると、アーティストの全部が知りたくなって、音楽雑誌を読み漁った。「底辺からはい上がった人、病気を抱えている人、苦労人。1本キレてる、狂気をはらんだ音に惹かれる。せっぱつまった感情を出す音楽やね」。
店の名「ギャラクシー500」は、熱愛するアメリカのアーティストのバンド名にあやかった。

「パンクとニューウェイヴとオルタナティヴ。あとは下ネタも好きって書いといて」とは橋目さんの弁。
混沌たる音楽の世界で貴重なナビゲーター
類は友を呼ぶ。海外からの音楽好きもめずらしくない。今宵は腕にたっぷりタトゥーの入ったスウェーデン人カップル、「パンクバンドが好きだから来た」と微笑む。橋目さんは遠来の客の好みを聞き、ふさわしいCDを選ぶ。
ナビゲーターがいると進みやすくなる。橋目さんは今どこにいるか、どこに向かえば新たな音楽に出会えるかを教えてくれる。その道に疎い編集Kにとって、聞くべき音楽を「処方」されるのは快感だ。稀有なバーである。

GALAXIE500
TEL
090-8122-8048
ACCESS
京都市中京区西木屋町通四条上ル紙屋町367 たかせ会館2F
最寄りバス停
四条京阪前
営業時間
20時~深夜
定休日
不定休