好きなものを集めて、訪れる人を驚かせたい。
赤と黒の配色が印象的なアンティークの和服店、店の奥には色とりどりの着物や和装小物が陳列されている。ビビッドな色遣いを好む、ただそれだけの店だと思っていた、2階に通されるまでは。
階段を登ると、濃密なまでの大正ロマン趣味が炸裂、赤黒に彩られた妖しい部屋が待つ。中央に吊るされた、凝った刺繍のあでやかな打掛に目が行く。暖炉の上には骸骨の置物。廃墟めいた壁、檻の黒猫がにゃあと鳴いた気がした。
赤い背張りのデコラティブなひじ掛け椅子に座る。腰かけているのは、江戸川乱歩の怪奇小説『人間椅子』なのではと倒錯した想像がふくらむ。この面妖な館の主はいったい何者なのだろう。
幼いころから独特な美的センス
大卒後1年で、自分の店をもつ
和服に身を包んだ渡辺健人さんは滋賀出身の33歳。独特の美意識を備えた、一風変わった子どもだった。
「小学生の頃、父に骨董市に連れていってもらい、着物や古美術を眺めるのが楽しかった。絵を描くのが好きで、葛飾北斎などの浮世絵を模写していました」。
京都成安高等学校の美術コースから、成安造形大学に進学し、日本画を専攻。在学中には東寺の弘法市でアルバイト、古い着物を扱った。
卒業後は西陣織の生地屋に就職するが、扱うのは化学繊維ばかりで、魅力が感じられずに辞めた。大学卒業後1年で、自分で古い着物を扱う店を始めた。仕入れは業者のオークションと、出張買取や持ち込みが主だ。かつての父親の実家を改装して、戻橋を開いた。
内装、撮影、フリーマーケット
戻橋のすべてが作品
日本画をたしなむ渡辺さんが追求するモチーフは、和風の髑髏(どくろ)だ。
「私が好きなのは日本画の髑髏。一つひとつ表情が違うから。怖さよりも美しさを感じます。たまに西洋の髑髏ももらうんだけど、あれは違うんだよなあ」。
渡辺さんの好みは明確だ。着物は大正から明治のアンティーク、素材は正絹で、凝った刺繍か手描きが施されているもの。家具はカーブが美しい猫足。画家は知内兄助(ちない・きょうすけ)。江戸川乱歩の世界観も好きだ。
「最近は写真も好きになってきました。古い着物を着て、うちのスタジオで撮影したものがいいですね」。
実は、ここ戻橋は写真スタジオでもある。アンティークの和服を購入すると、館内で自由に撮影ができる。
さらには毎月着物フリーマーケットを開催。リサイクルの着物、帯から草履(ぞうり)までたった500円で手に入る。上から下まで揃えても3500円也。「私自身、初めての和服は露店、500円で手に入れましたから」と、渡辺さんは微笑む。
独特の美意識と世界観で構築された空間。「好きなものを集め、訪れる人を驚かせたい」、内装や写真撮影、フリーマーケット。サービス精神あふれる戻橋のすべてが、渡辺さんの作品だ。
戻橋
TEL
090-5977-6061
ACCESS
京都市上京区中立売通黒門東入役人町237
最寄りバス停
大宮中立売
営業時間
13時~18時
定休日
不定休