間口は広く、その先は深く。新境地を拓く懐石料理店。
堀川通から一本入った、静かな住宅街にふじ義はある。小さな家と形容したい店内、白い漆喰(しっくい)の壁に木目が美しいテーブル10席の懐石は、1か月先までランチの予約がびっしり埋まる人気店だ。
「2年前に開店したばかりですが、ありがたい限りです」。
京都の老舗料亭和久傳(わくでん)でさらに10年修行し、大阪や京都で腕を磨いた店主の今井義勝さん。40歳になり、満を持して独立した。

テーブル席が理想の距離感
懐石といえばカウンターか座敷が一般的だ。ところが、ふじ義はテーブル席だけ。椅子での生活に慣れた40代の今井さん自身が、客として訪れたときにリラックスできる店にしたかった。
「それに、料理人の立場からすると、カウンターと座敷、テーブルで、お出しする料理が違ってくるんですよ」 。
たとえば、カウンターなら酒の進み具合に合わせて目の前で魅せるつくりかたを大切にする。座敷なら運ぶ距離があるぶん、だしの効いたあんかけ仕立てといった、椀が冷めない工夫を意識する。
「料理人とお客様との距離がカウンターほど近くないから、皿を作り込むのに時間をかけられる。座敷ほど遠くないから、調理法の選択肢は広がる。僕にとって、テーブルは理想の距離感なんです」。
器は、現代作家ものが中心。国内外を問わず、実際に見て気に入ったものだけ、自分の眼で選ぶことに決めている。
「いわゆるおちょこじゃなくて、細工が美しいボヘミアングラスなら、普段飲まない日本酒を飲みたいと話すお客さんがいらっしゃるんです。器が美しければ楽しみ方が増えるのって、おもしろいと思いませんか?」 。

3者がうれしい
循環で店は続く
ふじ義は5500円に始まるコース制で、アラカルトはない。どのコースでもきっと値段以上の満足をいただけますと今井さんが胸を張る根拠は、素材、技術、器、空間、サービスのすべてで最善を尽くしているからだ。なにが今井さんをここまで駆り立てるのか。
「お客様にかかわるものを妥協しないのが店の方針です。最高のものを作れば、お客様もおいしい、料理人も腕が振るえる、業者もいいものが仕入れられる。三者のうれしい循環がないと、店は続かないと思うから」 。
自分に厳しい一方で、客には優しい。しいたけが嫌いな人が、菌床ではなく原木育ちのしいたけなら食べられると。悪い食材や下手な調理で、食べられないものがあるならもったいない。僕の店が、食、ひいては和食に興味をもつきっかけになれたらと願っています」。
初心者への間口は広く、玄人への奥行きは深く。ふじ義の懐石が新境地を開拓する理由は、店主の構えにある。京都、和食界の期待の新星だ。

西陣 ふじ義
TEL
075-432-5765
ACCESS
京都市上京区堀川通寺ノ内上ル三丁目上天 神町 626-14
最寄りバス停
天神公園前
営業時間
12時~14時、18時~21時
定休日
不定休