アイデンティティは映画監督
取材で訪問したその日、とっ散らかった店内の様子に思わず息を呑む。雑然とした空間から姿を現したのは、アングラな雰囲気をまとった店主、佐藤訪米さん。現在はラーメン屋を休業し、映画監督として新作映画の公開準備に追われている。
ラーメン屋と映画、求めるのは心地よさ
初めて映画を撮ったのは15歳の時。クラスで文化祭用の8ミリ作品を撮り、映画制作のおもしろさを知った。進学した大学のある京都で映画研究会に所属するも、ジャズバーでのバイトが楽しくなり、大学からは足が遠のいた。
なんとか卒業するが就職はせず、自然と映画制作の道へ。アルバイトで生活費を稼ぎ、映画の企画を通すために奔走した。声が掛かれば東京でVシネ映画の助監督もして、西東を行き来しながら、映画中心の生活を送ること10年。転機は自主製作映画の初監督作『京極真珠』の全国巡行の途中、飛騨高山で出会ったヒッピーの男性の 「ラーメン屋やろう」のアドバイスだった。
気づけば「南座裏の九龍(クーロン)城」と呼ばれた今はなき大和(やまと)会館で、カウンターと小上がりだけのラーメン屋を始めていた。店はいわゆる「夜の花街の人々」に愛され、厨房に立つ佐藤さんは、どことなく映画の世界に通じる心地良さを感じていた。映画の仲間たちと祇園でラーメンを作りはじめたのが2000年。店がようやく軌道にのりはじめた頃、「祇園でかわいがってもらった女将(ママ)さんたちが、この世を去ってしまって、悲しかった。場所を変えようと思ったんです」。
佐藤さんは祇園を離れ、左京区で新たなスタートを切る。新生みみおのラーメンは「昼の住人」にも歓迎された。


ラーメン屋の親父として「みんなでおもしろいことがしたい」
今、佐藤さんはラーメン屋を休み、映画監督として多忙な日々を送る。2019年に京大西部講堂で行われたビッグバンド『渋(しぶ)さ知(し)らズオーケストラ』のライブを追ったドキュメンタリーなど、2作品の公開が控えているのだ。
ラーメン屋に専念していた時期も、監督である自分を忘れたことはない。今はたまたま映画監督のターンだから、映画作りに没入しているだけだ。
とはいえ映画の話になると、途端に饒舌になる佐藤さんがいる。同じ業界で活躍する監督の名が、次から次へと口を衝く。アイデンティティは映画監督。いつでも映画を撮る準備はできている。
佐藤さんの根底には、いつも「人生を楽しみたい」、そして「みんなでおもしろいことがしたい」という想いがある。佐藤さんにとって映画制作はスタッフ全員が楽しみ、そしてお客さんにもそれを共有してもらうこと。
このみみおは、次に準備している映画の舞台でもある。なんと素敵なことだろう。京都には、映画監督が営むラーメン屋をおもしろがる土壌がある。

ジャズミュージシャンやダンサーチームなど、歴代メンバーは総勢100名以上にも及ぶ。

中華そば みみお
TEL
075-761-1088
ACCESS
京都市左京区吉田下大路町16
最寄りバス停
京大病院前
営業時間
12時~14時半、18時~22時半
定休日
月・火