絶対に美味しいという付加価値。
ボクシンググローブをはめたコオロギ(語でクリケット)の看板イラストと、喫茶スペースに置かれた椅子の、細くて丸いシルバーの背もたれ。70年代のレトロ感に包まれた雰囲気に、愛着を持たずにはいられない。クリケットは、38年前から続く、京都中央卸売市場の青果店直営のフルーツパーラー。プロが選んだ極上のフルーツが毎日入荷され、贈答品や進物用にふさわしく、ツヤツヤした顔で並んでいる。オーナーの小坂洋平さんは、野菜や果物の輸入商社を30歳で辞し、家業に入って父親から果物の目利きを教え込まれた。話を聞くと、果物を生で食べる人が年々減っている現状に、歯止めをかけたいという強い思いが伝わってくる。
対面販売でこそ伝わる果物の美味しさ。
「誰でも、みかんが美味しいっていう昔の記憶はあるんです。でも美味しいみかんに巡り会えなくなるうちに、みかんから離れてしまう。街から果物屋さんがなくなって、最販店でお客さん自身が選んだ果物が美味しくなかったら、次はもう買いませんよね」。正しいタイミングで食べる果物の美味しさを知らない人も多いそうだ。それでもクリケットには、確かな目で選ばれた外れのないフルーツを、贈答品や進物として買い求める人が絶えない。とりわけ、洋平さんの祖父が開発し、果物の美味しさをそのままゼリーに固めた「クリケットゼリー」は、手搾りにこだわり、今や京都が誇るおもたせの逸品だ。喫茶メニューのフルーツサンドの美味しさも抜群、食べやすく切り分けられたどのひとつを食べても、絶妙の配置でフルーツが入っている。甘さを抑えた生クリームとスライスパンとの辛せなコンビネーションがたまらない。
そこに答えがあるから、絶対に外れは出さない。
「果物は趣向品ですよね。ましてや、生の果物をわざわざ店に行って食べるとなると、もう完全に趣味の世界です(笑)。そうなれば余計に、その人たちにいいものを提供していかないと。見た目も含めてがっかりさせたら絶対あかんと思ってます」。この洋平さんのポリシーは、スタッフへの指導にも表れている。「バフェでもサンドでも、絶対味見してから出すように言ってます。うちでおいしいもん出せるのは当たり前なんです、調理しないんやから。素材のいい果物撰んできて、一番いい時に店で味見もできる。それでもし食べごろ逃してたらおかしいでしょ? 」。確かに値は張るが、”絶対美味しい”という付加価値で信頼を培ってきたのだ。
「水がいいから日本の果物は本当に美味しい」。果物の美味しさは、日本という国のかけがえのない素晴らしさであることを、もっと知って欲しいと洋平さんは願う。確かに、食卓に果物が出てきたときのウキウキ感や、口にしたときの甘さと瑞々しさ。あの幸せな感覚が、懐かしむだけのものになるのは、あまりにもったいない。
フルーツパーラー クリケット
TEL
075-461-3000
ACCESS
京都市北区平野八丁都町68-1
最寄りバス停
小松原児童公園前、衣笠校前園
営業時間
10時~18時
定休日
火