どんな焼き方でも みんな正解。
「京都のお好み焼きは、北よりも南がおいしい」、そんな法則をご存じだろうか。
京都市内の西南、車の往来激しい四条通りと御前通りの交差点を進むと嵐電の軌道が横たわる。西院(さい)駅の踏切の手前に昭和の時代からずっとあるのが、お好み焼き屋「ゆあさ」だ。
「リニューアルのときに創業昭和28年(1953)と定めましたが、実は本当の開店の年はさだかではありません」。
そう話すのは6年前に店を継いだ湯浅博さん。ゆあさの前身は祖母が開いた「西院食堂」、叔母の代で「うまいお好み焼き屋」として知られるようになった。
あられ醤油が香る
ねぎ焼き
開店の1時間前、湯浅さんは店に入ると真っ先にガスの火をつける。厚さ16mm、畳よりも大きな鉄板には、しっかり熱が回るのに30分以上時間がかかる。
ゆあさ名物は2枚で750円の「ねぎ焼き」だ。ねぎは農家から直接購入してるけど不作で4倍になることもある、それでも西院じゃあ値上げはできないよね。そうつぶやいて湯浅さんはゆるく溶いた生地で手のひら大の円を描く。
クレープ状の生地にたっぷりのねぎと天かすを挟み、半分に折って醤油を塗りつける。刷毛からこぼれた黒い粒が鉄板にコロコロと転がり落ち、割れると香ばしい匂いがぱっと立ちあがる。
ベタ焼きの系譜を継ぐ、生地にねぎを練り込まないねぎ焼きだ。「あられを焼く醤油をとりよせてます」、ああ、道理で香ばしいわけだ。瓶ビールの杯が進む。
昭和から続く味
正統派のお好み焼き
看板商品はお好み焼きの豚玉。もしもお好み焼きの教科書があるなら「正統派」のページに載せたいほどの、奇をてらわないスタンダードなスタイルだ。
「味を変えない」「自分で焼くか選んでいただく」、これはゆあさの2大方針だ。
「たまたま新人の子がお客さんに『焼くかどうか』をお聞きし忘れた日が、ウスターソースを卓上に置くのをやめたときと重なったことがありました。50年来のお客さんが激怒して、『俺が知ってるゆあさじゃない!』と30分間ものあいだ叱られてしまいました」。
なにしろ30年越しの地元客はざらにいる。40年、50年選手もちらほら。東映の撮影所を訪れた俳優が「久しぶり」とのれんをくぐることもある。
長く通うファンの多い理由のひとつはタネにある。主に中力粉を使用、練ってから最長一晩寝かす。今も湯浅さんのご両親がブレンドしているそうだ。
さらに焼き方のコツを尋ねると、「お好み焼きにはルールはありません」。各家庭の好みに応じて、どんな焼き方だって正解なのだと、湯浅さんは笑顔を見せる。
四半世紀、半世紀前に来た人が、「なつかしい、昔と変わらない」と顔をほころばせる。「お好み焼きは南がおいしい」を証明する、まぎれもない名店だ。
ゆあさ
TEL
075-811-5020
ACCESS
京都市中京区壬生仙念町22
最寄りバス停
四条御前通、西大路四条
営業時間
火~土17時半~22 時(料理LO. 21時 ドリンクL.O. 21時半)、日・祝17時半~21時(料理LO.20時 ドリンクL.O. 20時半)
定休日
月