「小商い」がたくさんある街が好き
赤煉瓦(あかれんが)に洋窓のレトロなたたずまい、40年ほど前に喫茶店として誕生した空間に新しい風が吹き込まれた。2022年1月に西陣から引っ越してきた「喫茶カゼコ」。若きオーナー森風渡(もりかぜと)さんは、上七軒の街についてこう評する。
「いい意味で観光客向けではない『小商い』がたくさんある街が好き。偶然、路地でかわいい店を見つける楽しさがある。店が街を作っている感じがします」。
多様なコーヒーの世界に好奇心を刺激されて
1996年、父親の赴任先だったタイのバンコクで生まれた森さん。9歳で帰国後、両親の実家である兵庫県の赤穂市で暮らした。後に生業になるコーヒーとの出会いは大学生のときだ。きっかけはカフェに出かけて朝の時間を楽しむ友人たちとの「朝活」。カフェ巡りが増えるとたまに飲む程度だったコーヒーに接する機会が増えた。そのうちに今度は「同じコーヒーでも店によって味が違う」ということに気がついた森さん。
「調べてみたら、品種や精製方法に違いがあるとわかり、知的好奇心が刺激されました。それからはカフェではなく、コーヒー自体にハマっていきました」。
そうして大学のアパート近くにあった焙煎所に通うように。友人にコーヒーを振る舞うと、「おいしい」と飲んでくれる。その言葉がうれしかった。少しずつ、森さんは自分のコーヒー店を開きたいという思いが強くなっていく。
最大のリスク回避は、「できることを増やす」
森さんが思いを形にした最初の店は、23歳のときの「間借り」だった。新卒で入った会社を辞めようかと悩んでいたタイミングで、知り合いのタイ料理店から提案があったのだ。「ランチタイムに弁当の販売も一緒にしてくれるなら家賃不要」、そんな条件の9か月間のトライアルだった。
自分のコーヒーは受け入れられる。そんな手応えを感じた森さんが、初めての店舗を構えたのは「西陣京極」。路地の奥で家賃も安い、6席だけの小さな店だった。当初は大阪から通っていた森さんだが、経費をおさえるために、京都へ引っ越した。ゲストハウスでの宿直を兼ねる待遇を見つけ、家賃を浮かせた。
「できるだけかかるコストは抑えたい。小さく始める意識が強かったですね」。
店の名が知られるきっかけになった自家製スイーツやコーヒーの自家焙煎は西陣京極で始めた。プロのアドバイスを受けながら、少しずつ実力をつけていった。
「店を始めるときも、自信があったわけではないんです。むしろ自信がないぶん、リスク回避を選んできました。でも、できることが増えると自信がつきますね」。
今年で28歳。コーヒー屋を自分でやっていると話すと、同世代の友人からは驚かれるそうだ。とても柔軟で堅実な生き方の森さんは、街を作る「小商い」の一員として上七軒を彩っている。
風とCOFFEE 喫茶カゼコ
ACCESS
京都市上京区大文字町266-2
最寄りバス停
上七軒
営業時間
10時~18時
定休日
不定休