名刺はいらない。その人自身に会いたい
「10代で初めて海外に行ったとき、店を持って独立したとき。たくさんの方にお世話になったけれど、最後は自分に正直に決めてきました。自分のことは自分で決めたい。そういう性分なんです」。そう話すのは、祇園でバー「いち凜」を営む真由美さんだ。
持ち前の好奇心が 一生の仕事につながる
食べることと旅行が好きだった真由美さん。高校を卒業後、旅行業の専門学校へ。学生時代はバイトに励み、海外旅行へ。中国、韓国、ミャンマーなどアジアから、アメリカ、ヨーロッパまで。美術館を巡る3週間の研修にも参加した。「美しいものや一流のもの。食も含めて、あらゆる文化に触れたくて」。専門学校卒業後は、もっと多様な文化を知りたいと、ホテル業界で働くことに。そこはまさに、真由美さんの勉強の場所だった。
サービスをしながら厨房に出入りして、シェフから料理やワインの味を学んだ。館内のディスプレイの仕方、アートの知識も、先輩たちから教わった。「ホテルで学んだあらゆることが、もてなしの心とつながっていきました」。ゲストの中には、京都の芸事や文化に精通する人も多く、真由美さんは次第に、和装や祇園の街の文化にも興味を持ち、老舗ホームバーで働き始めた。好奇心のまま、飛び込むうちに転機が訪れ、真由美さんは店の責任者を任されることになる。
「悩んだ末、引き受けました。普段はなかなか会えない方や、知識豊富な方。老若男女問わず個性豊かで魅力的な人にこの世界は出会え、教えてもらえる」。
真由美さんは、自分の好奇心を満たす手段として、この仕事を選んだ。腹を括り苦手だったお酒も練習した。着物をまとい、心から「ありがとうございます」と言えたのもこの時から。数年後、真由美さんは独立を決意する。
食文化から四季の設え、古美術など、「ごはん食べ」での学びも多い。ゲストに指南を受け、世界の遺跡や北極を訪れる機会にも恵まれた。知らない世界を知り、また新しい興味を芽生えさせるこの仕事が、性に合っていると実感する。
心が震える出会いがある。それもこの仕事の醍醐味
「人の魅力は、その人の経験や人間性でしかない。人生を自分らしく歩んでいる人と話をしていると、共鳴するときがあります。お客様同士でも、そんな瞬間を味わってほしい」。サロンのようなこの店がきっかけで、ご縁が広がり人と人がつながるとき、なにより幸せを感じるそう。真由美さんは、ありそうでない一期一会を、日々カウンターで待ち受ける。
「名刺はいらない。肩書や社会的地位でなく、『その人自身』に会いたい」。「ご縁からのご縁」を大切にしたいからご紹介制。その真っ直ぐさに魅了された人のみが、「いち凜」のドアを叩く。
いち凜
TEL
非公開
ACCESS
京都市東山区祇園町北側
最寄りバス停
祇園
営業時間
記載なし
定休日
記載なし