すぐに売れたら、少しさみしい気持ちになる
美術関連書やビジュアルブックが7坪のスペースを埋め尽くす。小さな雑居ビルの2階。「マチマチ書店」は京都では数少ない、アートとデザインをテーマにした古本屋である。書棚の隙間から、ひょこっと現れた店主の名は中島直亮さん。出身は広島市。高校卒業後は故郷を離れ、日本大学芸術学部の文芸学科に進学。卒業後、住み込みの就職口があると聞いてやってきたのが、京都だった。
東京からゆかりのない京都へ
古本屋に出会う。
住み込み先は、円山公園にある旅館「お宿 吉水」。旅館ながらその当時、独立作家を招いた展覧会が頻繁に行われていた。そうして出会ったのが美術書専門の古本屋だ。
結局、その古本屋で中嶋さんは30歳から11年間務め、41歳で独立を決める。独立後は2017年から2年半、四条河原町のショッピング施設、マルイに出店。初めて主催した古本市も、マルイの店頭だった。
「古本市でつながった仲間たちの工夫する姿勢に、大きな影響を受けました」。この期間で、中嶋さんは古本屋として自分のスタイルを確立する。
デザインや建築、写真集は、表紙を見せて並べる。欧米、アジア、日本美術の展覧会図録を充実させる。めずらしい木版画も揃えるー。
2020年にマルイが閉店し、中嶋さんは本拠地を二条に移した。
決まった価値の外に新しい価値を見出す
中嶋さんが古本に関わるようになり20年近くになる。令和の今、飛ぶように古本が売れる時代ではない。中嶋さんはエ夫を重ね、古本屋を営んでいる。
「この仕事が『楽しいか、苦しいか? 』と聞かれれば、苦しいと答えます。ですが『他の人がやっていないことをやりたい』という思いがあります。いちばん楽しい瞬間は、人がまだその価値に気付いていない本を買い付けできたときです」。
書店に並ぶ本と違って、古本には決められた値段がない。値段を決めるのは店主だ。だからこそ、その本の専門性を学ばないと値段が決められないし、仕入れのための勉強は欠かせない。
「古本に値段をつける作業は、その本に新たな価値を吹き込むこと。もしかしたら、僕だけがその本に価値を感じているのかもしれない。でも、そうしないと、新しい価値は発見はできないですよね」。
中嶋さんにとって、マチマチ書店はただの古本屋ではない。自分にとっての価値あるものを集めた宝の山だ。
「本の売上は大事ですし、買ってもらえるとうれしい。でも希少でこの本には価値があると思ってしっかり値段をつけたのに、すぐに売れたら少しさみしい気持ちになるんです」。
そんな一見、矛盾した想いもまた古本屋の醍醐味なのだろう。やっぱり古本は面白い。そしてしみじみ、奥が深い。
マチマチ書店
TEL
075-841-5650
ACCESS
京都市中京区西ノ京職司町19-3 二条ビル2階
最寄りバス停
千本旧二条、二条駅前
営業時間
13~19時
定休日
日、月