父の店があった、この場所で
JR二条駅から徒歩すぐの立地に、2019年に誕生した「MIZO」。1階建て、ガラス張りのしつらえ。カウンターの向こう、薄暗い奥まった洞窟のような空間には全12席の客席。メニューには凝った皿が並ぶが、カジュアルな価格設定だ。
小さいながらアラカルトの数が多く、個性を感じる店。シェフは一体どんな人なんだろう。興味をそそられた。
あらゆる現場での経験を経てたどり着いた答え
オーナーシェフの溝邦郎さんが料理の世界に足を踏み入れたのは、高校1年生のときだ。ステーキハウスでアルバイトを始めたことをきっかけに料理に興味を持つようになった溝さんは、京都の調理師専門学校に進学。「料理はおもしろい。いつか自分の店をもちたい」と思うようになる。卒業後は、専門学校時代に講義を受けたシェフが務めていた、鷹峯の老舗フレンチ、「ボルドー」の厨房に入った。
「目にするものすべてが新鮮でした」。
憧れの名店での仕事。大変さよりも、本格的なフレンチの知識と高い技術を吸収できることに喜びを感じた。
そうして4年を過ぎた23歳から、溝さんは転職を重ねる。いつか自分の店に取り入れたいものを、一つずつ学びたくなったからだ。まずはベーカリーでパンづくりの技術を習得。次に、メニューはもちろん内装にもこだわった、河原町丸太町のカフェで働く。25歳のときに、ボルドー時代に一緒だった先輩に誘われ、東山のイタリアンの名店「イル・パッパラルド」へ。
「イタリアンのパスタは、鍋ひとつで完成する。凝った料理法を重ねるフレンチとは違います。素材の組み合わせで味が飛躍的に変化するイタリアンにおもしろさを感じました」。
30歳になり「責任がある立場で仕事をしておきたい」と考えた溝さんは、かつて働いたカフェのグループ店に戻り、本格的に社員として関わることに。新店立ち上げ、メニュー開発にも取り組む中で、自分の店を持ちたい思いが強くなっていく。
集う人を大切にしたいから
カジュアルイタリアン
「料理の道に進んだときから『父の塗料店があったこの場所で、いつか自分の店を』という思いがありました。サラリーマンの兄に相談したら、『この家を生かすのはお前にしかできない。がんばれ』と背中を押してくれました」。
41歳で満を持して独立。多くの経験を積み、最終的に溝さんが選んだスタイルは、カジュアルなイタリア料理店だった。
「カジュアルな雰囲気にしたのは、誰もが入りやすい店にしたかったから。今日はワイン主体で飲みたいとか、しつかり食べたいとか。その時々の気分に対応したい。そして、たくさんの料理の中から選ぶ楽しさも一緒に提供したいです」。
店内には地元の同級生やその家族、初めて店を訪れる観光客、さまさまな人が入り交じる。「MIZO」は、ここに集うみんなを笑顔にするイタリアンなのだ。
MIZO
TEL
075-841-7985
ACCESS
京都市中京区西ノ京小堀町1-7
最寄りバス停
千本旧二条
営業時間
11時半~14 L.O、17時半~21時 L.O
定休日
木、不定休(カフェのみの利用不可)