和菓子でも洋菓子でもない、「みのり菓子」
「和菓子でも洋菓子でもない、『みのり菓子』というジャンル。決まりごとはなく、私が作りたいものを作っています」。
作り手は幼い頃からお菓子作りが大好きだった元和菓子職人、小林優子さんだ。
菓子展で作品が評価され
「この道じゃない」と気づく
「1ページ目から順番に作っていって、最終ページまで作り終えたら次の本へ」。
まるでゲームをクリアするかのように、お菓子の本を攻略していった子どもの頃。暇さえあれば台所にこもってお菓子作りに没頭、小学4年でデコレーションケーキが作れるまでになっていた。
高校卒業後に進んだ製菓学校で和菓子に出会い、「指先だけであんなことができるなんて!」と職人のつくる繊細な和菓子に、すっかり魅了されてしまう。
そして選んだ就職先は、京都屈指の老舗菓舗。そこでは製造だけでなく、いろいろな部署に配属されたが、製造部以外の部署にいるときも「美しく仕上げられた和菓子を見るだけ」で心が満たされた。
そんな小林さんの転機は、和菓子展で大賞を射止めたこと。皮肉にも、和菓子職人として評価されて「私が作りたいのはお茶席の菓子じゃない」と気づいたのだ。
「自分のお菓子を作らなくては」。そんな思いに駆られた小林さんは、店舗を持たずに「みのり菓子」の活動を始めた。
たどり着いた答えは
自分にしか作れないお菓子
とはいえ、最初は「自分のお菓子」がなにかわからなかった。しかしある催しで「いちご大福」を作ったとき、目指すべき方向がなんとなく見えた気がした。いちごのスープにお餅を浮かべ、いちごのスライスを乗せた「いちご大福」は、まだ誰も見たことのない斬新さだった。
方向性が決まれば、アイデアはどんどん湧いてきた。ふと目にした風景からインスピレーションを受けることも多い。苔の緑、夕焼けの茜色。それらをお菓子で表現したいと、ノートにアイデアを書き留める。
小林さんはインスピレーション先行の人だ。頭の中で「お菓子の形を考える」時間が一番長く、味は形が決まってから考える。考えることが、楽しい。考えたら、あとはお皿の上で再現するだけ。
「できたてほどおいしいものはない。だから、お菓子も、作る人の指から離れた瞬間を食べてほしい」。
そう考える小林さんにとって、現在のように予約を中心とした、出来立てのお菓子を提供するスタイルは必然だった。
「うちのお客様は、お菓子と向き合いに来る。目の前のお菓子を味わうことに集中しているから、言葉を交わすのはお会計の時ぐらい」。そんな姿を見ることが、本当にうれしい。
独り立ちして7年。休みの日も厨房で仕込みをしていることが多い。頭の中は、次に作るお菓子のことでいっぱいだ。小さい時と同じ気持ちで、今も、これからも「自分のお菓子」を考え続ける。