おいしい野菜を買って、 家で調理してもらいたい
ガレージを改装した店内、陳列台の木箱や天然素材のザルに、新鮮な野菜や果物が並ぶ。それだけならおしゃれな八百屋だが、カウンターとテーブルがある。
「野菜を買って、食べて飲んで。居合わせた人同士が自然に盛り上がる」。そんな光景が日々繰り広げられるこの店は、一風変わった八百屋だ。店主の岡崎紗野(さや)さんは「普通の飲食店は『食べておしまい』。でも私はおいしい野菜を買って帰って、家で調理してもらいたいから」と、飲食ができる八百屋を開いた。
岡崎さんが出す料理のレシピは簡単なものばかりだ。カウンターで日頃の野菜不足を補う客もいれば、陳列合に並ぶ野菜を調達して帰る客もいる。
慣れ親しんだ京都で 料理の腕を商売を
高知出身の岡崎さんは、大学進学のため京都へ。卒業後は人気アパレルブランドの「トゥモローランド」に就職、百貨店で販売員をしていた。しかし年2回の長期休みで向かうのは沖縄だった。
ゆったりした時間の流れと美しい海に惹かれて、30歳を前に沖縄へ移住する。選んだ就職先は宮古島のホテル。しかし途中でコロナ禍となり、休業を余儀なくされる。この頃のことを岡崎さんは「人生の夏休み」と形容する。
「リゾート地のホテルですから、コロナで自宅待機が続きました。地元の市場に通っては食材を仕入れ、料理を作っては同じ寮に住む同僚たちに振る舞う毎日。
それが楽しかったのです」
どうせなら、そんな日常の延長線にある仕事を始めたいと考えた岡崎さん。物件を探し、資金の融資を申請して…と、毎月、沖縄から京都に通いながら開店準備を進めた。京都で店を開くことにしたのは、京都は故郷の次に慣れ親しんだ土地で、交友関係もあったから。
「会いたい人にすぐに会える距離感が大切だと身に染みたんです」。
そして2021年「八百屋然としたたたずまい」の、八百屋兼飲食店を始めた。
欲しいものを集めた店で「いいもの」をシェアする
いつしか自分の根っこにある「故郷のもの」を大切にしたいと思うようになった。だから野菜の仕入れ先は、主に故郷の高知から、京都の地物野菜も少し。
「昔は一人で飲み歩くのが好きでしたが、今は滅多に出ません。この店に欲しいものが全部揃っているから、ストレスがなくなったのかな。この店に集めた『いいもの』をお客さんとシェアしたいです」。
どんな人に来てほしい?との問いに、岡崎さんはこう答える。
「わさわざ遠くから来るのではなく、自分の日常にこの店を組み込んでくれる人に、ふらっと立ち寄ってほしいですね」。
一過性ではない関係性は居心地がいい。夏はかき氷目当ての子どもが集まり、ご近所さんが井戸端会議で盛り上がる。夜には、大人たちが野菜をアテに乾杯。岡崎さんが目指すのは、新しい八百屋だ。
yatono
ACCESS
京都市上京区主税町1090-2
最寄りバス停
千本旧二条、千本丸太町
営業時間
17時~21時
定休日
月、不定休