興味が湧いたのはレストランより、食材
近衛通から北に入った細い路地の町家で、男がぐるぐるとマシンの取手を回してひき肉を腸に詰めている。渦巻き状の腸を糸で縛るにつれて、見慣れたソーセージの形状に変化していく。サルシッチャはイタリアのソーセージだ。
その男の名は鈴木直哉さん。イタリア帰りの異色の料理人だ。
1978年生まれの埼玉出身。5歳のときから台所が好きで、「将来、自分で飲食店を持ちたい」と思っていた。そのためにはまず開店資金を稼ぐ必要があると考え、春日部工業高校に進学。卒業後、鈴木さんが飲食志望と知る人に誘われて、ラーメン店で勤め始めた。店を任されるまでになった4年目に、当時よく遊んでいた料理人仲間から、イタリアで働いていたという経歴を聞いた。
「僕も海外で働きたい」、そんなシンプルな思いでイタリアへ。日本人コミュニティのつてで、とあるフィレンツェの有名店で2年半、がむしゃらに働いた。
「当初は修行気分だったけど、お金をもらう限りはその場で役立つことが大事と気づきました。お金もらって勉強している場合じゃない。イタリアでは掃除も雑務もシェフの機嫌を取ることも、店が回るためのすべてに尽力して、働きました」。
25歳で契約が切れて店を辞め、帰国まで3ヶ月くらい猶予ができた。その短期間を利用して無償で手伝ったのが、「ダリオ・チェッキーニ」、エルトン・ジョンが買いに来るほどの有名精肉店だ。レストランより食材に興味が湧いていた鈴木さんにとって、純粋な勉強期間だった。
「店主、ダリオの『お前は料理人なんだから、きちんと肉を選べる人と付き合うことが大切』との言葉は響きました」。
中目黒から京都へ
鴨川の近くに店を開く
イタリアの一流店で働いた鈴木さんは、「作るのがゴールの職人気質では、店の経営はできない」と気づく。サラリーマンや異業種での経験を積み、29歳で中目黒に「サルシッチャ! デリ」を開く。店舗は1年半で閉めたが、本場仕込みの味に業務卸でも顧客がつき、サルシッチャの通信販売が生活の柱となった。
京都に来たのはひょんなきっかけだ。料理人の先輩が京都で店を開いた。お祝いがてら店を手伝いにきたところ、その場でいずれ最愛の妻となる人と知り合う。36歳で京都に移住した。
2019年の夏、40歳のとき「サルシッチャ! デリ」をこの地で開く。家賃が手頃で、日当たりがいい。
「なにより鴨川の近くってことが気に入りました。好きな場所で好きなことをして働けて、僕は幸せですよ」。
サルシッチャは肉の鮮度で味が変わる。鈴木さんを理解する肉屋にも出会え、常連客も増えた。一つひとつ自分の納得を積み重ねる、鈴木さんの人生。そのサルシッチャは濃く、誠実な味がする。
サルシッチャ! デリ
TEL
075-754-8078
ACCESS
京都市左京区吉田下阿達町45‒23 貸家中号室
最寄りバス停
京大病院前、荒神橋
営業時間
【店頭販売】水~金11時半~17時 、土日 14時~21時
【飲食】水木11時40分~15時 、土日 14時~20時
※編集部の判断でおおよその時間を表記しています
定休日
月