手芸は、楽しむことが大事
通りでも目を引く、赤いドアが目印の一軒家。店の名前は「アンジーアンジー」。
ヴィンテージの布や手作りキットを求め、遠方からも客が訪れる手芸店である。
予期しない出来事の連続
切羽詰まって始めた店
店主のあしだのぶこさんは大阪の南河内出身。三姉妹の末っ子として育った。父の仕事の関係で京都へ。大学卒業後は生地メーカーに事務職で就職する。
長く親元で暮らし、「2人の姉と同様、お見合い結婚で子どもを生む人生を信じて疑わなかった」とかつてを振り返る。しかし30歳を過ぎた頃、予期しないことが起こる。子どもができない可能性が高いと、医師から言われたのだ。
「小さいときから望んでいた道が閉ざされた」。そう感じ、目の前が真っ暗になった。時期を同じくして、今度は大黒柱の夫が「会社を辞めたい」と言い出した。さらには、なにか仕事を始めて欲しいと。
「結局、主人は会社を辞めないことになったのですが、あの頃の私は今までにないぐらいに切羽詰まっていましたね」。
当時、子どもにワンピースを縫うなど、手芸が流行していた。習っていた洋裁を活かせば、手芸店がでさるのではないかとあしださんは考えた。経験も知識もないが、家の近くのこの岩倉で手芸店をはじめる決意をした。「手芸に使えそうな布を並べておけば、なんとかなるだろう」。
どうにか店は軌道には乗ったが、年々、足は減る一方だった。
得意じゃないからこそ、手芸の楽しさを伝えたい
商売は甘くないと気づいたあしださん、「40歳を過ぎたら店を閉めよう」。そう決めてから、たとえば売れ筋のシックな色合いではなく、自分の好きな柄やカラフルな布ばかりを取り揃えた。ホビーショーにも参加した。その趣向が有名デパートの目に留まり、イベント出店が決定。不思議なことに、個性を発揮するにつれ、これまでにない展開が広がっていったのだ。
店を閉めるつもりが、気づけば10年。50代は海外へ買い付けのために、国ごとの手工芸を求めてヨーロッパを旅した。
「自分の好きなものだけを置きたい。この店は、どこを切っても「私」なんです」。
他店に当然のように置いてある手芸の材料がなく、客に謝ることもある。でもそれこそが、この店らしさ。
実はあしださん、服飾科を出た姉たちと比べると、手芸は得意ではなかった。「手芸なんて面倒なことやるもんか! って思ってました」。そのせいだろうか、同店の看板商品、あしださん考案の手芸キットは、大らかさを感じる。実際、買い付けでも、精緻な美術品より、ヨーロッパの家庭で受け継がれる生活に根ざした素朴な針仕事に惹かれるそう。
「お客さんが、私の考案したキットを完成させて見せてくれると、すごくうれしいです。でもね、上手にできたかどうかは大事ではないんです」。
楽しむことが一番、そう言って笑った。
Angie Angie
TEL
075-712-8507
ACCESS
京都市左京区上高野薩田町1-7
最寄りバス停
岩倉大鷲町、岩倉三宅町
営業時間
10時~17時
定休日
日・月