ヤノベケンジの世界から語る現代アート
ジャイアント・トらやん

巨大化したトらやん人形。子供の命令にのみ従い、 歌って踊り、火を噴く子供の夢の最終兵器。
アルミニウム、鉄、真鍮、FRP、発泡スチロール/720×460×310cm/2005年/photo: 豊永政史
2004年10月にオープンした金沢21世紀美術館。建った当初より、妹島和世氏と西島立衛氏(SANNA)の設計による円形でガラス張りの建物が、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を受賞し、21世紀の新しい美術館として注目を集めた美術館である。レアンドロ・エルリッヒ氏の《スイミング・プール》をはじめ、世界のトップアーティストのユニークな作品が常設展示されるなかで、ヤノベはオープンからの半年間「子供都市計画」で関わることになる。
この関わりは、完成された美術作品を展示するだけでなく「作品を作り上げるプロセスこそ面白い」という新しい美術館のコンセプトのもと、美術館の外側に「プロジェクト工房」というアーティストが滞在するアトリエを立ち上げるところからはじまった。外部の人も自由に出入りできる工房には、トイレ、台所、風呂、制作スタジオなどを完備する。ヤノベは学芸員の黒沢伸氏とともに、アーティストがそこで滞在して制作するプロセスを、公開しながら作品を完成させる「アーティスト・イン・レジデンス」を積極的にアドバイスしながら構築した。
実は、ヤノベと黒沢氏は‘92年に水戸芸術館で、1ヶ月にわたる「アーティスト・イン・レジデンス」によりプロジェクトを実現させた因縁があった。美術館に布団を干し、レールを敷き、電車を走らせ、ヤノベの誇大妄想的な世界観を誇示した《サヴァイヴァル・システム・トレイン》(1992)を完成させた「妄想砦のヤノベケンジ」プロジェクトがそれである。(写真右)「コミュニケーションアート」という時流もあったが、ヤノベは単なる「ワークショップ」に終わらせないプロのアーティストとしての表現にこだわり、この工房付きのレジデンスを完成に導いた。
「子供が安心安全に生きていける社会とはどういうものか」を考えながら作られたシミュレーションの街づくりが、「子供都市計画」である。ヤノベは半年間金沢に滞在し、金沢市民や金沢美大の学生たち、また京都造形芸術大(現京都芸術大)やインターメディウム研究所(IMI)の教え子たちとも関わりながら、多くの意見を取り入れて毎月さまざまな作品を制作発表していった。この最終披露展が「子供都市―虹の要塞―」だ。
「子供都市」のキャラクターには火を噴く巨大な《ジャイアント・トらやん》(2005)が登場し、前号で紹介した子供専用のシェルター型映画館《森の映画館》(2004)や、鉄道、ディスコ、テレビ放送局など、さまざまな機能を持つパビリオンが増殖を続け、美術館を完全包囲する。ちょうど美術館の真ん中に常設展示されていた《スタンダ》(2001)の反対側に、子供を守る保護壁のように取り巻く「虹の要塞」は出来上がり、かつて誰も見たことのない、壮大な愛の贈り物となって出現した。また、このプロジェクトに参加していた学生が、後にデザイナーやマネージメントとして活躍している。
この成功体験が、既存の美術大学の中に教育プログラムとしてプロのアーティストを呼び、学生たちと関わるプロジェクトを始める、ヤノベの「ウルトラプロジェクト」につながっていった。




ヤノベケンジ
PROFILE
現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。
1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。2017年旅の守り神《SHIP’S CAT》シリーズを制作開始。
https://www.yanobe.com/