京都のモダン建築の魅力を広める「京都モダン建築祭」が11月1日から10日まで開かれ、102件の建物が公開されました。京都モダン建築祭実行委員のまいまい京都代表・以倉敬之さん、同事務局長の藤井容子さん、ハンケイ500mの円城新子編集長が、今年で3回目を迎えた京都モダン建築祭の魅力について語りました。

好きなものがわからない。
それでもいいじゃないか。
円城:以倉さんは、なぜ京都モダン建築祭に関わるようになったのですか。
以倉:2021年に京都市京セラ美術館で開かれた展覧会「モダン建築の京都」がきっかけです。アドバイザーの京都工芸繊維大学准教授・笠原一人先生(建築史)にまち歩きのガイドをお願いしており、一緒に何かしたいねという話になりました。当時はコロナ禍で、展覧会公式のオンラインサロンを開く形で協力しました。

提供:国立京都国際会館
展覧会を企画した京セラ美術館企画推進ディレクターの前田尚武さんから、会場だけでなく、まちの建築そのものを見てほしいという思いを聞き、会期中にツアーを開催すると共に、展覧会に伴走するかたちで5ヶ月にわたるオンラインサロンを開催することになりました。建築史家で大阪公立大学教授の倉方俊輔先生、笠原先生を交えて企画を進め、展覧会に先立ってスタート。その後、展覧会だけで終わってはもったいない、まちに広げようと話し合い、翌年の京都モダン建築祭につながりました。

円城:ご自身もモダン建築が好きだったんですか。
以倉:先生方の影響で好きになりました。僕は元来、無趣味な人間でして。熱い趣味を持っている人が羨ましいし、そういう人の話を聞いて影響を受けたい。今はよく、仕事でも学問でも、好きなことを究めろというじゃないですか。それは大事だし、そうかもしれない。でも、僕みたいに、好きなものがわからない人もいっぱいいるはず。そう考えて、様々な分野のスペシャリストとまちを歩く、まいまい京都の活動をしています。
目の前の建物を楽しんで見ると人生が豊かになる。
円城:まちのモダン建築の魅力はどこにありますか。
以倉:まちの表層は建物の集合体です。建築の面白さは、まちの面白さを左右するはずですが、その割に私たちが建築を楽しむ力はまだまだ弱い。よくある観光案内は、何年に何があったという歴史ガイドになりがちで、目の前のものを見ているようでよく見ていません。私たちが企画するまち歩きツアーは、まちを楽しむためにまず目の前にあるものを全力で楽しみたい。目の前にあるものの見方が変わることで、参加者の世界が広がり、暮らしも人生も豊かになればと思っています。
円城:U29というパスポートも面白いですね。

以倉:29歳以下の人を対象とした、いわば若者割引のシステムで、昨年から導入しています。若い人に積極的に参加してほしいと考えて。でも、学割には抵抗があって、学校に行っていなかったり、働いたりしている若者も利用できるものをと。全期間のパスポートは5500円。U29は2200円なので、だいぶ差をつけています。
藤井:文化的な価値ある建物を残すには、次の世代に魅力を感じてもらうことが大切です。今年はU29のおかげか、昨年にも増して若者のグループ参加が多かった気がします。InstagramなどSNSの普及と、レトロカフェのブームもあり、時代と合っているような気がします。

円城:今回の目玉はどこですか。
藤井:話題になったのは、鴨川をどりが開かれる先斗町歌舞練場や、京都国立博物館明治古都館(耐震化のため2015年から休館中)、非公開の大丸ヴィラ、宿泊しないと入れない任天堂旧本社屋「丸福樓」の一棟まるごと見学コースなど。一方で、町家など人が住む家が公開されているのが貴重で興味深いという人もいて、百人百様の注目のされかたがあります。

以倉:時間帯も、朝のツアー、夜の公開、宿泊付きの「名建築に泊まる」など変化をつけて。他は親子で語る対話型建築鑑賞とか、小中学生が案内する小中学生向けのツアー。建築祭オリジナルチャームの寄付付きガチャガチャも好評で、早々に完売となりました。

建築をエンタメにしたい。
旅の目的になれば。
円城:この企画は、なにより間口が広いことが魅力です。いくつかに絞って深く見たい人も、気軽にたくさん見たい人も満足できる。
以倉:建築を、旅の目的やエンタメの一分野として確立したいと思っています。グルメや漫画といったレジャーに「建築を見に行く」が並び立つ未来を想像します。これまで建築といえば、安全性や効率性が重要視されてきましたが、それだけでなく楽しむということに注目したい。「好き」な人が増えれば、建築が、まちが、文化がもっと豊かになっていくと思います。

グルメや漫画は、消費者側の知識も豊富で、好きな人も語る人も多い。たとえばグルメなら、多くの人が原材料やレシピにも関心を寄せています。消費者の目が肥えれば、作って売る方も自ずとクオリティーが上がっていきます。建築だって好きな人が増えれば増えるほど、町並みはきっと豊かになるはずです。
藤井:古いものが守られることに加え、建築への関心が高まったら、まちの空気が面白くなる、新しくできる建物が面白くなるのはすごいことです。
円城:以倉さんは、その立役者ですね。
以倉:人の息吹みたいなものも感じてほしい。できるだけ、建築所有者や、そこに住んだり働いたりしている人が出てきて話してくれるところを増やしたい。建築の面白さは入口で、その中に人がいることに注目していただけたらと思います。

まいまい京都代表
以倉敬之
PROFILE
まいまい京都代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社勤務、イベント企画会社経営をへて、2011年「まいまい京都」創業。2018年には「まいまい東京」も開始した。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演。京都モダン建築祭、神戸モダン建築祭、東京建築祭実行委員。共著に「あたらしい『路上』のつくり方」。

京都モダン建築祭事務局長
藤井容子
PROFILE
京都モダン建築祭実行委員会事務局長。編集者、企画者。京都岡崎魅力づくり推進協議会コラボレーター、まいまい京都事務局、イシス編集学校師範。編著書に『地図で読む 京都・岡崎年代史』、『共読する方法の学校 インタースコア』(共著)、など。