人生、わからないから
おもしろい
中書島の駅そばにあるレトロな銭湯「新地湯」の真向かい。
「新地湯さんが昭和55年。うちの店は57年の建物だそうです」。
凛とした着物姿の店主、山本理恵さんがそう教えてくれた。地域の人たちに愛されてきた喫茶店跡に誕生した酒カフェ。であれば、店主はきっと地元の方なのだろう。そう思っていたので、遠く宮城からの移住組と聞いた時は大変驚いた。
和文化に親しんだ少女時代
宮城では震災を経験
九州の熊本で生まれた。生家が日蓮宗の寺院だった山本さんにとって、和装や日本酒は日常のもの。また、日本酒はコミュニケーションの道具であり、おいしい酒もあれば、悲しい酒もある。誰から教わることもなく、そう感じていた。
18歳の時に上京し、社会人になってからは日本酒の味も覚えた。それからは結婚・出産を機に東北へ。酒どころ宮城。慣れるまで少し時間はかかったが、自然に囲まれた田舎暮らしは快適だった。
20年近く、宮城で暮らす中で、あの東日本大震災も経験した。「うちは山形寄りの内陸なので津波の被害には遭いませんでしたが、周りには浜の方からお嫁に来ている人もたくさんいて。他人事とは思えませんでした」。
震災前は日本酒好きを生かし、都会の女性に向けた地元観光資源のPRとして酒蔵の見学ツアーをボランティアでしていたが、震災後はNPOで復興支援に携わった。家に閉じ籠りがちな被災者に向けた交流の場を作る活動だった。
これまでの経験を生かしたお店を
きっと、お酒の神様に呼ばれたのだろう。縁のあった京都に移住して6年。働ける場を求め、大好きな日本酒のカフェを開いて2年半になる。それまでは京都に親戚もいなければ地縁もない完全なる「よそさん」だ。
急流に押し流されるような展開を「まさか、京都で店を開くなんて」と振り返る。続けて「お酒の席は一期一会。店を始めてわかりました。無駄に飲んでいたわけじゃないんだな」と笑う。年齢も60に近くになり、人生は人との出逢いで変わることをしみじみと感じている。
「東北の復興支援は続けていきたい。無理なく続けるには何ができるかなと思ったときに、東北の日本酒を紹介するのがいいのかな、と。酒蔵のお膝元である伏見でそれができるのは、私がよそから来ているからなのだと思います」。
メニューの筆頭は、宮城の日本酒。スルスルと喉を流れていくような優しい味わいだ。ドライフラワーがセンスよくあしらわれた店内は女性一人でも入りやすい雰囲気で、20代の常連もいるという。
和服、お酒が仲立ちするコミュニケーション、人の縁。振り返ると、すべてが寸分の狂いもないパズルのピースのようにピタッとハマっている。人生はわからない。だからこそ豊かでおもしろいのだ。
Sakecafe 楓fu
TEL
090-6060-8915
ACCESS
京都市伏見区南新地4-1
最寄りバス停
中書島
営業時間
17時~22時(土日祝15時~)
定休日
月・火、不定休