ヤノベケンジの世界から語る現代アート
キンダガルテン
巨大な保育ルーム「キンダガルテン」に掲げられた黒板には再生のシンボルとしての「太陽」が浮かんでいる。そこにさまざまなメッセージやドローイングが日々描き綴られてゆく。
ネオン、木、黒板塗料、他/535×115×12cm/2005年/photo: 豊永政史
2005年の愛知万博では関われなかったヤノベの《マンモス・プロジェクト》と《ジャイアント・トらやん》は、金沢21世紀美術館の「子供都市計画」で実現しただけでなく、同時期にオファーを受けた豊田市美術館の展覧会でも多くの反響を呼ぶことになった。
この展覧会の開催にあたり、ヤノベは約1ヶ月間、トヨタ自動車の部品製作工場を借りて作品の滞在制作に入る。ディーゼルエンジンの動力が、鉄鋼廃材で組み上げられた巨体をゆするマンモス型木馬《ロッキング・マンモス》。
前にも後ろにも進むことができず足踏みする20世紀のマンモスだ。構成部品には、廃車寸前だったヤノベの愛車(トヨタ・ハイエース)が使用された。また、像高7・5mもの巨大腹話術人形《ジャイアント・トらやん》も、同工場で火を噴く実験を重ね、完成した。このファイヤーパフォーマンスは話題になり、愛知万博並みの列を成す人々が観覧に訪れた。
「KINDERGARTEN/キンダガルテン」と銘打たれた豊田市美術館での展覧会。ロボットの人形と、ロッキングチェアのようなマンモス、積み木のような立方体は、まさに巨大なおもちゃ箱のように展示された。壁には、再生のシンボルとしての「太陽」が浮かんだ巨大な黒板があり、大きな文字で詩が書かれている。
―うたって うたって おどって おどって 子供の庭の光の中で 宇宙は全てをつくってくれる 全てをつくりたがる君達もまた宇宙につながる―
この詩は、幼児教育の祖といわれるドイツの教育学者、フリードリヒ・ヴィルヘルム・アウグスト・フレーベルから影響を受け、ヤノベが自作したものだ。
フレーベルは、幼稚園の原型を作ったことでも知られており、子供が生まれながらにして持っている、ものを作る能力、ものを作ることに夢中になるそのエネルギーは、ある種、神聖であり、神のような何かがついているのではないか、そう考察している。「自分たちアーティストも、ものを作っているとき、そんな幼児が持って生まれた能力と同じようなものが存在しているのではないか。それを伝える展覧会にしたかった」。こんなヤノベの想いは、巨大な幼児用の保育ルームのようなインスタレーションが施された展示室で実現した。
ヤノベケンジ
PROFILE
現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。
1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。2017年旅の守り神《SHIP’S CAT》シリーズを制作開始。
https://www.yanobe.com/