ヤノベケンジの世界から語る現代アート
トらやんの大冒険
[通常版] ISBN 978-4-903545-16-5 C0071
[特装版] ISBN 978-4-903545-17-2 C0071
発行:Akio Nagasawa Publishing (赤々舎)2007年
ヤノベケンジが制作してきた多くの作品は、個々に独立しているのではなく、その作品が生まれるバックグラウンドやコンセプトを含めると、それぞれがつながるストーリー性も持っている。2004年の《トらやん》登場以降、そのストーリー性は強くなり、ヤノベは個々に作品を語るより、統一した大きな物語として伝えることが大切なのではないかと考え始めていた。
2007年、ヤノベは今までの彫刻作品やアートプロジェクトを物語でつないでいくような、初めての絵本『トらやんの大冒険』(赤々舎、2007)を出版する。物語の着想は、1997年にヤノベがチェルノブイリで観た太陽の絵。被曝した保育園の壁に描かれていたこの小さな太陽と《トらやん》が一緒に旅をする冒険ストーリーが、絵本の中で展開されていく。(ある夜星を見ていたら光のかけらがおちてきた。「流れ星? 」それは小さな小さな太陽だった。『トらやんの大冒険』より)
素朴で優しいタッチで描かれた可愛いイラストは、今までの作品をデフォルメし、自身が鉛筆で描き起こしたものだ。《ジャイアント・トらやん》(2005)をはじめ、象に乗った《森の映画館》(2004)、「取手アートプロジェクト」のラッパ型作品《フローラ》(2006)、《M・ザ・ナイト》(2006)のネズミ、《マンモスプロジェクト》(2004)のマンモスなど……。絵本の中で、ヤノベの作品は物語のキャラクターとして登場し、《トらやん》の敵や味方となって生き生きと存在している。
『トらやんの大冒険』は、ある種、子どもでも理解しやすいように構成されたファンタジーだ。しかし、その裏側には暗喩として、強烈にリアルなストーリーも内包している。ヤノベは、単なる絵本ではなく、様々な解釈が可能な一つのドキュメント本を制作しようと考えた。その上で、今までの作品のバックグラウンドにあった普遍的なメッセージを、絵本のストーリーに落とし込みたかったのだ。
ヤノベの思いは、絵本のあとがきにもつづられている。1997年、防護服に身を包んだチェルノブイリ訪問で、自分を笑顔で歓迎してくれた高放射能濃度区域に住む老人や親子。出会った彼らへの答えを求めるあがきのように、ヤノベは作品を今も作り続けている。絶望的な廃墟の中に見た一つの希望のような太陽。それを温めながら新しい時代を築き上げたいという願いが『トらやんの大冒険』には込められている。
ヤノベケンジ
PROFILE
現代美術家。京都芸術大学美術工芸学科教授。ウルトラファクトリーディレクター。1965年大阪生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。
1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作。幼少期に遊んだ大阪万博跡地「未来の廃墟」を創作の原点とし、ユーモラスな形態に社会的メッセージを込めた作品群は国内外で高評価を得る。1997年放射線感知服《アトムスーツ》を身にまといチェルノブイリを訪れる《アトムスーツ・プロジェクト》を開始。21世紀の幕開けと共に、制作テーマは「リヴァイヴァル」へと移行する。腹話術人形《トらやん》の巨大ロボット、「第五福竜丸」をモチーフとする船《ラッキードラゴン》を制作し、火や水を用いた壮大なパフォーマンスを展開。2011年震災後、希望のモニュメント《サン・チャイルド》を国内外で巡回。2017年旅の守り神《SHIP’S CAT》シリーズを制作開始。
https://www.yanobe.com/