にぎわっているけど落ち着く場所
廃業寸前の銭湯を、銭湯好きの若者が見事、復興させたことから「銭湯界の聖地」とも称される「サウナの梅湯」。そのカリスマ的存在に憧れて、全国から銭湯好きの若者が梅湯に集結している。今回取材を受けてくれた丹羽悠貴さんは15名ほどいる、梅湯スタッフのうちの一人だ。
これ以上、大好きな銭湯を
失くしたくない
丹羽さんは愛知県一宮市で生まれ育った。原風景は、祖父に連れられて行った古い銭湯。高校を卒業し、フリーターから転職を重ねたが、銭湯通いだけは止めることはなかった。2年前の29歳のとき、地元にあった思い出の銭湯が廃業した。
「僕が就職して別の仕事をしているうちに通っていた銭湯がなくなっていくのがつらくて。それで、銭湯に対する気持ちがどんどん大きくなっていったんです」。
銭湯への熱い想いが、浴槽から流れる湯の如くあふれた。銭湯がなくなるのを、なんとか食い止めたい。本気でやりたいことがようやく見つかった気がした。
しかし、銭湯の仕事は生半可なものではない。その過酷さを教えてくれたのが冒頭の若者こと、梅湯を運営する「ゆとなみ社」の代表で、銭湯の継業・復興に携わる湊三次郎さんだ。歳はひとつしか変わらないのに、こうやって取り組んでいる人がいる。その情熱に衝撃を受けた。「自分もやりたい!」仕事を辞め、迷わずゆとなみ社の門を叩いた。
京都に住まいを移し、9ヶ月が経つ。所感を聞くと、「地元の銭湯の人から聞いていたので覚悟はできていました。でも、やっぱり大変です」と笑う。銭湯の仕事というと番台仕事のイメージが強いが、それはほんの一部。たとえば、丹羽さんのある日のスケジュールはこうだ。
「朝9時半からゆとなみ社が運営する北野の『源湯』で配管修理。夕方には『梅湯』に戻って番台に。お客さんの対応をしながら40分ごとに薪をくべる合間に、見回りや掃除業務。すべては、お客さんに気持ちよく利用してもらうためです」。
仕事終わりは深夜2時。丹羽さんには仕事上がりに必ず行うことがある。客のいない浴槽にひとりで浸かり、この空間を独り占めするのだ。
「めちゃくちゃ贅沢ですよ! どんなに疲れていても、幸せな気分になります」。
理想の銭湯は、
いつもにぎわっている
ハードな日々が続く。それでも客からの「いいお湯でした」という言葉を聞くと、たまった疲れも吹き飛ぶ。
お客さんの言葉も、うれしい。
「その日就職で上京する学生さんが、深夜バスに乗る前に来てくれたんです。帰りがけに、『コロナで大学に行けなくてつらかったけど、梅湯が僕の救いでした』と言ってくれて……。感激でした」。
銭湯は地域交流の場。こんなご時世だからこそ、それは際立つ。「いつもにぎわっているけど落ち着く場所」。そんな銭湯を故郷でも。それが、丹羽さんの夢だ。
サウナの梅湯
TEL
080-2523-0626
ACCESS
京都市下京区岩滝町175
最寄りバス停
河原町正面
営業時間
平日14時~翌2時
土日6時~翌2時
定休日
木