京つけもの もり プレゼンツ
プロ棋士 久保利明さんが明かす、将棋のコマかい話
「駒」(コマ)にまつわる細(コマ)かい話から、将棋のおもしろさをのぞき見します。
今号は一筋縄では操れない「桂馬」をめぐるお話です。
「天使の飛躍」が見られるとき―
駒の個性を活かす、棋士の采配
盤上の駒をうまく活用することを、「駒を捌(さば)く」と呼ぶ。その駒を活かす技の巧みさから「捌きのアーティスト」と賞賛される久保利明九段は、扱いにくい「桂馬」を捌くのも、やはりうまい。
桂馬がなぜ扱いにくいのかというと、前方2つ目のマスの左または右にだけ進める駒だから。周辺のマスを飛び越える独特の動きをし、直進できないため、目の前に置かれた「歩」に弱いのが特徴だ。
「桂の高跳び、歩の餌食」、将棋にはこんな格言がある。初心者は、ぴょんぴょんと軽率に桂馬を跳ねて進めがちだ。すると眼前に配置された歩にあっけなく取られてしまう。将棋には獲った駒を自分のものとして使えるルールがあるから、相手にその桂馬を使われて、負けることも多い。
「初心者にとって、扱いがもっとも難しい駒です。有段者くらいにならないと、桂馬はなかなかうまく使いこなせない」と、久保さん。
しかし、腕に覚えがある者にとっては、その個性がおもしろい駒でもある。滅多にない光景だが、まれに、中央から敵陣へ、桂馬が鮮やかに「斜めに跳ねる」対局を見かけることがある。その見事な動きは、俗に「天使の跳躍」と呼ばれる。そんなふうに自在に桂馬を動かせた場合は、局面はおおむね優勢に展開していく。
「天使の跳躍」のように、個性の強い桂馬をうまく進めるのは、棋士の采配だ。
久保さんが得意とする戦法は「振り飛車」。対局が始まるとき、右の定位置にある「飛車」を左に移動して攻めていくのが特徴だ。この戦法では、2枚ある桂馬のうち、右にある桂馬は動かさず自陣の守備をする。また、もう1枚の左の桂馬は、中央に移動して飛車と一緒に攻撃に使う。もちろん、先の格言にならい、「金」「銀」で守りながら。
「『振り飛車』で戦う者にとって、特に左の桂馬は大切ですね」。
久保さんは強いまなざしでこう教えてくれた。
今年2019年の夏、NHK杯の2回戦を、熱く観戦した将棋ファンも多いだろう。将棋の最年少プロ入りを果たしたことで知られる藤井聡太七段を久保さんが破ったときも、左の桂馬はセオリー通りの役割を見せた。久保さんは左の桂馬の前に金と銀を配置。そして飛車を前方に配置して、藤井さんの攻撃をしっかり防御してから、桂馬を慎重に「跳ねた」。一方で右の桂馬は、終盤まで自陣の「王将」を守り続け、久保さんを勝利に導いた。
独特の動きゆえに一筋縄ではいかず、ときとして捨て駒にされがちな桂馬。しかし「捌きのアーティスト」久保さんのようなトップクラスの棋士の手にかかると一転、桂馬は盤上で輝きを見せる。
全部で8種類、合計20枚の個性的な駒―その性質を見極めて捌く。そんな棋士の采配に注目すると、将棋は俄然おもしろくなる。
棋士の箸休(はしやす)め
『京つけもの もり』の千枚漬
シャキシャキとした食感とかぶらの甘味。
調和した味が絶妙の京漬物です!
久保利明(くぼ・としあき)
PROFILE
将棋界を代表するトップ棋士のひとり。1975年、兵庫県加古川市生まれ。4歳のころ、将棋に興味を持ち、淡路仁茂九段門下に入門。86年、棋士養成機関の「奨励会」入会。93年、17歳のときにプロ棋士に。駒を華麗に操る棋風から「捌(さば)きのアーティスト」の異名を取る。2017年から日本将棋連盟棋士会副会長。「負けが込んだときにも将棋を辞めたいと思ったことは一度もないんです」
京つけもの もり
京都の食卓に並ぶ、変わらない毎日の味
TEL
075-802-1515
ACCESS
京都市右京区西院金槌町15-7
最寄りバス停
三条春日