ここは、これからの街だと思った
新緑の高瀬川沿いにある醸造所「Kyoto Beer Lab」。名物は和束町の茶葉を使ったクラフトビールだ。代表の村岸秀和さんは、空き家再生を通じた地城活性化のNPO法人代表の顔も持つ。門外漢の人間が、どうしてピールを醸造するのか。
「みんながしないことをすることで、モチベーションが上がるんです」と村岸さんは目を細めて答えてくれた。
大工さんとの出会いから
町屋再生のNPOを立ち上げ
彦根で育ち、同志社の法学部に進学。空き家再生は、「気さくなおっちゃん」こと、ある大工さんとの出会いが発端だ。手弁当で地域の町家改修を続ける彼を、村岸さんもボランティアで手伝うようになった。
いずれの起業を念頭に、卒業後は会計事務所で4年、監査法人で2年働いたあと、27歳でNPO法人を立ち上げた。法人名は「クリエイターズ・ジャパン」。路地奥で重機が入らず、手つかずになった町家をリノベーションする法人だ。
「そしてお世話になっていた大工のおっちゃんを雇って、ボランティアの方も集めて、改築を始めました」。
貸し手と借り手、時には地域住民と対話しながらリノベーションを重ね、京都市内を中心に200軒もの物件を手掛けるまでにNPO法人は成長した。
32歳のとき、実績を評価されて、過疎に悩む和束町の行政から期間労働者向けのシェアハウスの相談を持ちかけられた。地域の魅力発信を考えるうちに茶葉を使った商品開発の話が出た。
茶葉と聞いて村岸さんはひらめいた。実は、村岸さんが長く続けている趣味がビール研究だったのだ。「お茶のビールを飲んでみたい」という好奇心からはじまり、試行錯誤の末、2010年に茶ビールが完成。空き家再生と着眼は近く、「これまで注目されていなかった、価値あるもの」と「他の人がまだ手がけていないビジネス」が重なった瞬間だった。
ビールはOEMでボトルまでしてもらい、イベントで販売。でも、原価が高くて人件費を捻出できない。そこで村岸さんは「人に頼んで利益が出ないなら、自分で作ろう」と、醸造所のオープンに踏み切った。こだわりと合理性をあわせもつ、村岸さんならではの思い切った決断だった。
可能性を秘めた場所で、
ないものを作りたい
この場所に決めたのは、店からの眺めが決め手だった。かつて視察で訪れたポートランドで、地域の住人が散歩途中にビールを楽しんでいたのを見た。高瀬川の遊歩道が続くこの場所と、イメージが重なった。数年後、芸大も移転してくるとわかった。「ここは、これからの街だと思いました」。
オープンから4年が経ち、海外客も訪れる人気の醸造所に。「地域の緑側のような場になりたい」と、村岸さん。晴れた日にせせらぎを眺めながらのお茶ビールという幸せ。「みんながしないことをする」人だからつくり出せた空間がある。
Kyoto Beer Lab
TEL
075-352-6666
ACCESS
京都市下京区十禅師町201-3
最寄りバス停
河原町正面、七条河原町
営業時間
15時~21時半LO(土日祝13時~)
定休日
無休